コラム「南風」 美の効能


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 以前から芸術鑑賞が好きではあったが、お店を始めたころから主人と一緒に展示会に出掛ける機会が増えた。彼が写真をやっていることから美術関係者の来店が多く、情報が多いのだ。

 去年は少ないような気がしていたが日記に記した分を数えても1年間で48の展示に足を運んでいた。書いていない分もあるので実際はこれより多いのだろうが平均ひと月に4回は展示を見ていることになる。週1、2回の休みなのでこれはなかなかの数ではないだろうか。写真に限らず、絵画、陶芸、インスタレーションなど何でも見る。プロ、アマも問わない。気になったものには足を運ぶ。芸術は特別なものではなく生活の延長線上にある。
 展示は温泉につかっているように見る。頭を真っ白にして裸の身を委ねる。本当に楽しいことはいつも初めに少しの我慢が必要だ。温度差に肌がなじむまでゆっくり過ごしたい。湯疲れすることもあるが、良いものに出会うと心が共鳴していくような感覚になる。先日読んだ本に「小説とは魂の告白である」とあったが、これによく似たものがあるように感じられる。幸せな出会いの後はまず言葉が出てこないものだが、後々まで作品は自分の中で冗舌に語り、温(ぬく)もり続ける。難解であったり引っ掛かりを感じた作品には大体裏がある。作品の背景や国籍、歴史を知る良い機会だ。調べる時間もまた楽しい。
 作家のふとした素顔やエピソードを知ると作品を見る目がまた変わってくるので、展示会場などで会える場合は実際に会話してみるのもお勧めだ。意外な一面が見られたりする。私は作家自ら来店されるので恵まれている。高潔で豊かな作品を出す陶芸家がインスタントラーメンについて熱弁していたり、素晴らしい写真家と男と女の話に花を咲かせたりすることもある。かなりぜいたくな仕事である。
(國吉真寿美(くによしますみ)夜カフェ「rat&sheep」経営者)