コラム「南風」 哀愁のB級ホテル


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 かつて米軍御用達だったわがB級ホテルも事業開始から48年目に突入し、この厳しい業界の中で何とか立ち位置を確保している。今や観光・ビジネス・スポーツ合宿他のシェアが分散され、われながらその無謀なる事業転換に成功した幸運に感謝している。豪華できらびやかな非日常型ホテルではなく、機能性と居心地のよさで勝負する上質のB級ホテルを標榜する。

 それにしても、この稼業を長くやっていると、いろいろな場面に遭遇する。ゲストのけが・体調が急変しての病院、救急車の手配。火災報知機のけたたましき鳴動(たいていは誤報かイタズラ)。トイレのつまり。ボイラーの故障。停電。お次は人間関係編。夫婦げんかの末にホテルへ逃げ込んだ子連れ妻と、連れ戻しに来た夫の、犬も食わぬ不毛の戦い。不倫中のカップルの部屋に乱入した不倫女性の夫と、不倫男性の壮絶なバトル。自殺未遂。宿泊客の逮捕劇。まだある。無銭宿泊、詐欺、備品の窃盗。スタッフはその場面に遭遇した己の不幸を呪(のろ)いつつ、対策にもがき苦しむ。がしかし、最も心を砕くのはクレームの処理。いくらこちらに非があるとはいえ、客に怒鳴られ、ののしられ、罵詈(ばり)雑言の雨アラレ攻撃を受け、うっすらと涙しながら、それでも歯を食いしばり、最善なる解決策を模索し駆けずり回る。
 真にホテルマンとは悲しき職業なのだ。
 そんな彼らを癒やす魔法の言葉がある。
 「ありがとう。また来るね」「ここに泊まってよかった」「あなたが居てくれてよかった」「快適でした」
 などと歯の浮くセリフを吐いてみよう。たちまち彼の目に希望の灯がともり、根雪のように堆積した積年の呵(か)責(しゃく)もどこかへ飛んでいき、不幸にも、またしばらくこの業界に身を置くことになる。ホテル家業というもの。甚だヤクザな商売である。
(宮城悟(みやぎさとる)デイゴホテル社長)