コラム「南風」 はじめの一歩


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 真新しい空手着に袖を通し、帯を結んだ瞬間、一瞬にして強くなれた気がした。初めて道着を着た日のことを昨日のように覚えている。

 5月に入り練習は少しずつハードになっていった。武道場は部員全員で練習するには狭く、1年生の私たちは下半身強化のためランニング、坂ダッシュ、校舎の廊下での基本練習が続いた。先輩方から教えていただいたことを早く習得したい、もっと強くなりたいとの思いから早朝練習を日課とした。早朝練習は、佐久本先生から直接指導していただける、午後の練習時間では得ることのできない貴重な時間であった。
 島にいたころは、自分で料理を作ったことがなかった。しかし実家を離れてきょうだいで暮らしている私には、家に帰っても温かい夕食があるわけでもなく、他校ではあったが空手部に所属していた弟も練習後おなかをすかせて待っている。夕食の支度中、母のことをよく思い出し、母の手料理が恋しかった。ハードな稽古の日は食事中にもかかわらず、眠気に誘われウトウトすることもあった。
 県大会に出場できる選手の数は最大30人。しかし、浦添高校空手部は部員60人。約半数が試合に出場できない。大会前には出場選手を懸けての熾烈(しれつ)な戦いが部内選考会で行われた。大会に出場することは容易でなく、選手には「責任」が伴うことを選考会で学んだ。
 高校日本一を決める「全国大会」は年に2回行われる。3月、日本武道館で行われる「全国高等学校空手道選抜大会」。また8月に行われる「全国高等学校総合体育大会(インターハイ)」である。
 1年生の冬、思いがけないチャンスが巡ってきた。3月に行われる全国空手道選抜大会、団体形メンバーに抜擢(ばってき)されたのである。強くなりたいとの一心から早朝練習を課してきたことが実を結んだように思えた。
(豊見城あずさ、劉衛流あずさ龍鳳館館主)