コラム「南風」 伝え合いと魔法の機器たち


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 去る3月1日、障がい者IT活用シンポジウムに参加した。人は自分の考えや感情を文字や言葉、声や動作表情など非言語の手段を使い発信し、相手から送られた情報に意味付けをして心の伝え合いをしている。

 事故や病気などで伝え合いの手段を思うように使えないときに、コミュニケーション障害支援機器はそれに代わる魔法の機器だ。展示だけでなく開発者、利用者、研究者の意見発表もあり貴重な機会だった。
 文字を一語一語つむぎ読み上げる意思伝達装置やタブレット端末のアプリをタッチパネルで操作するもの、視線をキャッチする非接触型の最新機器など当時使用できていたらと思った。
 私の母は14年前にALS(筋萎縮性側索硬化症)で他界した。蚊が飛んできてチクリと腕を指したとする。払おうとしても腕が上がらない。蚊がいると、そばにいる介護者に伝えたくても話すことができない。この苦しさ。療養中、本人が痛みやかゆみを医師や看護師へ伝えることは治療に必要だ。
 昨年、厚生労働省は41年ぶりの難病対策改革で新たな視点を示した。「難病は遺伝子の変異が一因で人類の多様性の中で一定割合発生が必然である。難病の患者・家族を社会が包含して支援することはこれからの成熟社会にふさわしい(一部省略)」。この理念が浸透し幅広い場での価値観のパラダイムシフトが起こり、誰もが生きやすい地域づくりにつなげたい。
 シンポジストからは機器は充実したが、需要が少なくサービスの継続が厳しいことや、購入後、症状や環境に合わせた調整はサービス提供者が利用できる制度がなく、知人に頼ったり、買ったが使われないケースもあったり、ヒューマンITサポートの仕組みづくりの必要性が挙げられた。なぜコミュニケーション支援はいつも後回しなのだろう。
(田港華子、オフィスDEN代表)