コラム「南風」 沖縄らしいにぎやかな看取り


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 悪性腫瘍の終末期にあって長らく入院していた80代のオバアが、自宅に帰ることになりました。

 ご家族の間でも、いろいろ悩みがあったようです。でも、在宅を担当する私が呼ばれて診察に伺った時、ご本人が天を指さし、それから手を合わせて「早くね」とだけ言われたので、これは急がなければならないと理解しました。
 病院の地域連携室と担当ケアマネの素早い調整、そして訪問看護ステーションの協力のもと、家族の決断から3日後に、なんとか在宅療養の体制を整えることができました。
 退院に当たって病棟看護師が自宅まで同行しましたが、彼女によると「すでに自宅はお祭り騒ぎ」だったということです。つまり、親族みなが集まり、オバアの退院を祝した宴会が始まっていたんですね。
 親族たちが迎える自宅に帰ってきて、きっとオバアもホッとされたんでしょう。徐々に呼吸が穏やかになり、そして、そのまま息を引き取られたようです。私に電話がかかってきたのが退院した日の夕方のこと。駆け付けた時にはすでに永眠されていました。
 死亡確認の診察をしている間も、大勢の孫たちが走り回り、大人たちは島酒交じりで泣き笑い、「いやー、良かった、良かった!」「家に帰って死ねたよね」「さすがオバアだ、頑張ったねー」と口々に。オバアの寝顔には自然なほほ笑みが浮かんでいました。
 実ににぎやかな、沖縄らしいお看(み)取りをさせていただいたと思います。ありがとうございました。
 退院祝いの宴会だったはずですが、どうやらシームレスにお通夜へと引き継がれるようです。名残はありましたが、エンゼルケア(死後の処置)を少しだけお手伝いして、1時間ほどで失礼いたしました。
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(高山義浩、県立中部病院感染症内科地域ケア科医師)