コラム「南風」 はじめての町


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 いつものスーパーの一角。生花コーナーが拡充され鮮やかな花々で埋め尽くされている。春の香り。卒業入学シーズンだ。4月から環境が変わる方も多いだろう。私は今まで県外で暮らしたことはないが引っ越しは度々経験した。

小心者だから同じ県内でも新しい町はどこかよそよそしく心細い。浦添の港川に引っ越した時は隣なのに那覇とこんなに違うものかと驚いた。生活の音から星の見え方まで結構違うのだ。若狭で育ったから海が恋しくてカーミージーという里浜まで歩いて行けることを知った時はかなりうれしく夏は何度も遊んだ。貝や小魚を見つけては心を癒やす。常連さんとごみ拾いをし、打ち上げバーベキューもした。
 最近は工事中で以前のように入れなくなっているがそのままで十分素晴らしかった。住む人がその場所の自然を生活になじませることはきっと大切な意味を持つ。港川は散歩にも適している。外人住宅街を歩けば野良猫が悠々と暮らしている。エリアごとに猫の顔触れは変わる。大きな木にはこっそり挨拶(あいさつ)をする。なじみの顔は増やそう。拝所や城跡、少し足を延ばせば湧き水もあり歴史を知る手掛かりになる。図書館も雰囲気がよく小さな本の森のようで気に入っている。司書から苗木の手入れをしている方まで丁寧だ。
 運動公園も地域の方が活用してにぎわっている。張り切ってウオーキングをしていた期間は残念ながらあっという間に過ぎてしまったが、空色のトラックを歩くのは気持ちがよかった。そしてもちろん、すてきな店も多い。
 町は人が作っている。新しい町と仲良くなれるよう好きな気持ちを育てよう。側(そば)にある自然の声を聞こう。
 出会いを大切にしたら縁は大きく広がっていく。町もそれを待っている。気が付くと、いつの間にか私は港川が好きになっていた。
(國吉真寿美、夜カフェ「rat&sheep」経営者)