コラム「南風」 弱さを誇れ


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 「僕の心はひび割れたビー玉さ のぞきこめば君が逆さまに映る」
 これはKinKi Kidsの「硝子(ガラス)の少年」の歌詞のワンフレーズです。私の一番好きな邦楽の歌詞。少年のほろ苦い恋心を歌っていますが、この二行だけで少年のうぶさと心の繊細さが伝わってきますよね。

 そして「君が逆さまに映る」という表現。ぞっとしませんか? この歌詞の中の彼女は少年より年上なんだろう。そんでもって嘘(うそ)つくのが上手だったりしてかわいい顔してわりとやるこの彼女に少年は弄(もてあそ)ばれていたに違いない! なんて勝手に想像が膨らんでしまったり(笑)。少年の目線で描かれた世界。その歌詞の表現力に衝撃を受けました。
 それともう一つ、この歌詞を好きな理由があるのです。それは、少年の弱さに共感できるから。最近、池澤夏樹さんの「きみが住む星」という本を読みました。その中の一節です。
 「ぼくたちはみんなピカピカの傷一つないガラスを窓に嵌(は)めて生まれてくる。それが大人になって、親から独立したり、仕事に就いたり、出会いと別れを重ねたりしているうちに少しずつ傷がつく。(途中省略)でもね、本当は、傷のあるガラス越しに見た方が世界は美しく見えるんだよ。(以下省略)」
 すてきな言葉だと思いませんか? 傷のあるガラス越しから見る景色、お花やたった一本の草さえキラキラ光って見えることがあります。弱いことは決して悪いことではない、むしろ誇れることと思いました。
 私も人の言葉をいちいち気にしたり、怖がりだし、よく泣くし、相当薄いガラスの心を持っています。(笑)。人前で歌っていけるかなと悩んだ時期もあったけどそうじゃなくて、そんな私だから歌える歌があるんだなって思えるようになりました。そうだ! ひび割れてなんぼや!(笑)
(Manami、歌手)