コラム「南風」 幸せを呼ぶ山登り


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 一昨年の3月、当時の職場の人たちと山登りをした。上司と臨時職員4人の計5人で名護にある山を目指した。

 上りは大した問題もなく順調だった。これなら不慣れな私でも何とかついて行ける、と思っていた。
 しかしもうすぐ頂上に到着、という時に雨が降り出した。せっかくの山頂からの景色はあまり楽しめず、山頂で食べる予定をしていたご飯も、とにかく下山してからということになった。
 その下山が大問題だった。土や石でできた道がとにかく滑るのである。私は誰よりも滑りまくり、フェニックスという植物の葉をつかんだり、しまいには、捕らわれた宇宙人のように、左右の腕それぞれをメンバーに抱えてもらったりと、みんなの足を引っ張り、多大な迷惑をかけた。
 やっとの思いでふもとまでたどり着き、公民館の軒先でご飯を食べた。すると、公民館の中にいた方が、お茶を出してくださった。お茶と北部の方の温かさに心が和んだ。
 翌日、上司に「次はもっと難易度の低い山に登りたいです」と言ったところ、「まだ登る気なの!?」とあきれられた。
 そんな楽しくも苦い思いをした山登りから半年、山登りメンバーに変化が訪れる。T君が長年目指していた某試験に合格したのだ。すぐさま新天地へ。さらに1年後には彼の仕事の成果が新聞紙面をにぎわせた。
 その後にはYちゃん、私、Aちゃんと次々に正社員の職を得ることができた。臨時職員だった4人全員が就職したのだ。ひょっとして、あの山登りが幸せをもたらせてくれたのだろうか。
 上司も異動になり、山登りメンバー全員が、当時の職場を巣立った。今では本島、離島、県外と離れ離れだ。時々会う人もいれば、なかなか会えない人もいる。ゆるく長くつながっていければと願っている。
(トーマ・ヒロコ、詩人)