コラム「南風」 信用のブランド力


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 2012年10月30日、メーカーズシャツ鎌倉は100年ぶりの大型ハリケーンと共に、NYに上陸した。停電と洪水でNYは瀕死(ひんし)の状態だった。朝7時、予定通り開店を強行。マンハッタンで営業していたのはホテルとハンバーガー店、私たちの店だけ。ハリケーンの恐怖より日本人の作るシャツが、目の肥えているNYのビジネスマンに認知してもらえるかの方が怖かった。

 洋服は日本古来のものではない。戦後、日本で流通する洋服はほとんど欧米のブランド品であった。日本人には理解は無理という考えに対し、私たちの長年のマーケティング研究と日本での実績をひっさげて戦いを挑んだ。絶対に成功させるという強い信念があったのも事実である。最悪の天候での開店に、さすが日本人魂と評価された。次に「本当に日本製なのか?この品質でこんな価格で、地代の高いマディソン街の中心部でペイできるのか?」という疑問と懸念であった。
 現在彼らは中国をはじめ開発途上国からの、粗悪な品質に首まで漬かっており、かつて彼らが愛した品質の出現は半ば諦めていた。
 メード・イン・ジャパンは、彼らが待ち望んでいた品質であった。終戦後、粗悪品の代名詞と称された日本製品、長年の先輩たちの努力の末、今では高品質を保証するブランドとしての地位を獲得している。日本製の信用と期待を裏切ってはならない。NYは情が通用しない実力の世界、彼らが認めるか否かが全てである。
 今年、スミソニアンマガジンの4月号で「鎌倉シャツは、アメリカの文化を日本人らしい繊細な工夫と感性を持って超越した」と評価された。服飾は文化の結晶であり、成熟した文化の証明でもある。伝統ある欧米製というだけで品質と感性が漂う。洋服で世界に進出し成功をつかむには、日本の持つ信用のブランド力が絶対条件となる。
(貞末良雄、メーカーズシャツ鎌倉会長)