助詞は、名詞に後続し、文における動詞や名詞との基本的な構造関係を表している。
まず、次のような沖縄語の例文をみてみよう。
(1)一郎や新車買(みーぐるまこー)たん。
(一郎は新車「を」買った。)
(2)チルーや医者(いさ)なたん。
(チルーは医者「に」なった。)
(3)タルーや先生(しんしー)やん。
(タルーは先生「で」ある。)
日本語には目的語を表す助詞「を」、補語を表す「に」、連結文の「で」がある。一方、沖縄語では、(1)~(3)が示すようにそのような助詞はなく、基本文型において日本語とは明らかな違いがある。英語の目的語、補語とかにもそのような助詞は必要としない。
さらに、日本語の「一郎が沖縄語ができる」は「一郎に沖縄語が話せる」のように、主語に「が/に」、目的語に「が」を許す場合がある。しかし、沖縄語では、(1)と同様、「一郎が沖縄語(うちなーぐち)ないん」である。
また、沖縄語では、「私が」に「や」を続けることができる。「花や」が「はなー」になるように、(4)における「私がー」は「私がや」からの転化である。
(4)くれー「私(わー)がー」
じょーいならん。
しかし、日本語では「私がは」とは言えない。
日本語には、「私の物」のように、2つの名詞の関係を表す「の」がある。(5)が示すように、沖縄語では通常「ぬ」になる。
(5)妻(とぅじ) 「ぬ」物(むん)
あり「が」妻(とぅじ)
二人(たい)「が」物(むん)
私妻(わんとぅじ)
しかし、指示代名詞や数詞の後では助詞は「が」だが、話し手、聞き手、母/父親を表す語の後では無標示になる。「我が妻」「我が国」のような古い用法とも違う。
以上のように、助詞は、文中における名詞句の構造標示を担うが、日本語とは基本的な違いがある。
(宮良信詳、琉球大学名誉教授(言語学))