コラム「南風」 父と雑誌と私


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 南部を運転していると道路植栽のデイゴが鮮赤色の花を咲かせていた。枝の間からはすっきり青い空、毎年見られるわけではないがこの島だけの初夏の景色。

 今週末は伯父の13回忌だ。伯父は書誌学者で新聞情報の整理法に関心が高く、亡くなる前日まで日課のスクラップブッキングをしていた。法事では新聞のコラムを書くという機会をいただいたことを報告しよう、きっと喜んでくれる。
 実家の父は出版の仕事以外に日本画を販売していた。京都の作者から受け取り後自宅に持ち帰り、家族に本物を見せてくれた。数千万円の値がついているとの話に「あるところにはあるねー」と話をしたことが思い出される。おや? その会話はつい最近もわが家で交わした覚えがある。どうも、私の生活レベルは子供のころと変わっていないみたい。
 小学生時代の私の愛読書は「暮しの手帖(ちょう)」という女性向け生活情報雑誌だった。昭和40年代生まれの同世代だと一世を風靡(ふうび)していた雑誌なので私と同様の方もいるだろう。父は名物編集長の花森安治さんと接する機会があったらしく、「おかっぱでスカートをはいている男の人だけど、すごい人なんだよ」と語っていた。
 中でも一番の楽しみは生活用品を実際に使用し耐久性や使い勝手を比較する企画だ。例えば、2段式冷蔵庫を家庭と同じ環境を完璧に整え、冷蔵したキャベツのしおれ具合を撮影したり、ビールが冷える時間を計ったり、徹底した顧客志向の詳細な分析と「わざわざ買うに値する商品ではない」や「まぁまぁ」など辛辣(しんらつ)な評価。商品が売れなくなって困るのではと心配した。それでも企業側も結果内容を真摯(しんし)に受け止めていたことは大人の世界の真剣さを子供ながらに感じた。私はご指摘対応の研修を行うがこのころに関心の萌芽(ほうが)は芽を出していたかもしれない。
(田港華子、オフィスDEN代表)