コラム「南風」 迫りくる限界、沖縄の救急医療


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 救急患者の受け入れを「断らない病院」であることは、地域の皆さんの支えあってのことです。ベッドが空くのを辛抱強く待ってくださる方のおかげです。本来なら入院させてあげたい方が、理解を示して自宅療養を選択してくださることにも支えられています。

 ただ一方で、病棟での仕事に移ると、ある種の矛盾を感じることがあります。例えば、退院直前になって「やっぱり自宅ではみれません」と断られたり、もともと車いすだった方について「せっかくだから歩けるようにしてください」と頼まれたり。救急を受け入れている急性期病院の役割について、なかなか理解が浸透していないようです。
 沖縄でも多くの病院で、救急の受け入れ態勢が厳しくなってきています。「満床を理由にした受け入れ拒否」という、あたかも病院が無慈悲であるかのような記事が紙面に出ることもあります。でも、満床であることは、決して病院の不備ではないはずです。
 「救急外来の簡易ベッドでもいいじゃないか」という声を聞くこともあります。ベッドが診断して治療してくれるなら、いくらでもベッドを増やしますよ。しかし、救急搬送をひとり受け入れると、そこへ医師や看護師を集中的に投入しなければならないのですね。つまり、病院にとって「ベッド」とはシステムなのです。救急医が「もうベッドがない」と悲鳴をあげたとき、それは「患者を支えるシステムが維持できない」という意味なんです。
 医療機関が重症患者の受け入れを断ったとき、そこでは地域の病院として役割を果たせなかった責任が確かに問われると私も思います。ただ、医療機関を利用している地域全体の責任についても考えてみてください。医療と福祉の適正な利用について、沖縄でも真剣に考えるべき状況となりつつあります。
(高山義浩、前県立中部病院感染症内科地域ケア科医師)