コラム「南風」 美酒との出会い


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 わかっちゃいるけど止められない。接客中ついワインを飲んでしまう。楽しい乾杯の翌朝、日記にこう書する日も。「二日酔い!飲み過ぎは毒!」

 昔は全く飲めなかったんです。と言っても、常連さんは冗談だと信じてくださらない。しかし本当に、避けられない飲みの場ではハンドルキーパーを買って出るほどお酒とは無縁の生活であった。幼いころ、飲酒によって急変する大人は恐怖以外の何者でもなく、お酒は怖い飲み物。そう意識に刷り込んだらしい。(それはやはり否定できないのだが)かたくなになった私の扉を開いたのはある夜出会った1杯のウイスキーだった。
 もう随分前の話。身も心も疲れ果てていた私は、上司と夕食を囲んでいた。海が見える白壁がきれいなお店。外国人客が多く、英語が耳に入る。それは何かの打ち上げで、確かウーロン茶で初めの乾杯をした。
 何杯目かで勧められ、頼んだ知らないお酒。スコットランドにある、アイラ島という島で作られるお酒らしい。琥珀(こはく)色が美しい。しかし初めての強い香りに、やはりためらいが生じる。たまには楽しく過ごしてもいいじゃないか。
 こわごわ口をつけて驚いた。すごい味である。漫画だったらチカチカと顔の周りを星が飛んでいるだろう。しかし、気を取り直してもう一度ゆっくり味わう。すると何とも言えない複雑で豊かな口当たりであると気付いた。「熱」が特別な方法で時間をかけ「水」に溶けてしまったかのよう。甘さも苦さも両極端に違う物同士が交わり、深い世界観を作り上げている。今まで食べていた物も、ウイスキーと一緒に味わうことでまた違った部分を刺激されるようだ。同じ物なのに味が変わって感じられる。大変。出会ってしまった。
 人生何が起こるかわからない。新しい扉を開いた元上司は今の主人である。
(國吉真寿美、夜カフェ「rat&sheep」経営者)