コラム「南風」 母と認知症介護


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 認知症で寝たきりになった母をみとってから11年目の今年、母の介護記録『介護―いのちを輝かすために』を出版することができた。

 母に認知症状が出た頃から介護日誌をつけていたので、それを基に早くまとめなければという思いはあったが、なかなか手をつけることができずにいた。それが、昨年『70歳…私の挑戦』を書き終えると、一気に筆も進み書き上げることができたのである。60年以上親子関係にあった母を見送るということは、介護記録をまとめるのにも11年の時間が必要であったということなのかもしれない。
 今日、認知症は特別な病気ではなく、誰でもがかかりうる病気になったといえよう。厚生労働省の推計によると、462万人の認知症の人がいて、軽度認知障害も含めると、実に800万人余になると推計されている。これは65歳以上人口の約4人に1人という割合になる。これまで、どちらかというと保護的・偏狭的であった認知症介護から、認知症本人の生きがいや社会参加をも支援するといった当事者中心の介護への転換が求められていると思うのである。もちろん、現実の在宅介護は依然として非常に厳しい。
 私は、母の介護を通して、介護は介護者による支配的な関係ではなく、お互いのいのちを輝かし合う創造的な営みであり、真の自己を実現し合う“あなたと私”の共生関係にあることを学ばせてもらった。
 今回の標題を「母と認知症介護」としたのは、私たち介護者は認知症の母親を一方的に介護するのではなく、当事者である母を中心に共に創りあげる認知症介護という意味をもたせて、「母の認知症介護」ではなく「母と認知症介護」とした。母は認知症という重い代償を払うことで、私たち家族に、理解し合うことの重要性という大切なプレゼントを残して旅立ったのである。
(神里博武、社会福祉法人豊友会理事長)