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次期戦闘機の第三国輸出問題 密室議論で国是大転換 壮大な無駄、紛争助長も 柳沢協二(元内閣官房副長官補) <視標>


次期戦闘機の第三国輸出問題 密室議論で国是大転換 壮大な無駄、紛争助長も 柳沢協二(元内閣官房副長官補) <視標>
この記事を書いた人 Avatar photo 共同通信

 政府は与党間の協議を経て、英国、イタリアと共同開発する次期戦闘機の第三国輸出を解禁する方針を閣議決定した。巡視船や掃海艇が任務遂行のために必要な場合に備えて搭載する武器と異なり、戦闘機は、それ自体が戦闘を任務とする「殺傷能力のある武器の最たるもの」だ。

 この輸出解禁が「国際紛争を助長しない」という従来の国是とも言うべき政策の大転換につながることは論をまたない。

 そこで与党間協議では、輸出の「歯止め」が課題となり、三つの指針が決められた。一つは輸出の対象を共同開発の次期戦闘機に限定する。また、輸出相手国を日本との協定において「武器を侵略に使わない」約束をした国に限り、現に戦闘が行われていると判断される国を除外する。さらに、輸出に当たっては個別案件ごとに与党協議を経て閣議決定するというものだ。

 これが果たして「歯止め」になっているのだろうか。まず、今回の決定は次期戦闘機限りだが、将来、他の装備も個別に輸出を解禁することが可能だ。その際、戦闘機が可能であるのに大砲やミサイル、さらに護衛艦が不可能という論理的必然性はない。相手国についても、すでに15カ国と協定を結んでおり、さらに増やすことができる。

 与党協議と閣議決定という手続きも、今回のように密室で協議がなされるのであれば、歯止めとして意味を持たない。

 また「侵略に使わない」という歯止めの実効性を国会で問われた木原稔防衛相は「部品の供給を止める」と答弁した。だが侵略であれ、自衛であれ、戦闘で損耗した武器の修理は使用国にとって最大の関心事であり、そのニーズに応えて部品や修理役務を提供するのが輸出国の商取引上の責任だ。その責務を果たさない国の武器を買う国は常識的に存在しない。

 つまり政府の理屈では輸出は事実上不可能であり、「侵略に使わない」との歯止めも、実態と全く合致しない。

 むしろ問題は、相手国が「侵略」以外で戦闘に使うケースだ。相手国が戦闘機を買うのは、将来の戦闘に備えるためだ。イスラエルは、自衛権名目でパレスチナ自治区ガザを攻撃している。ロシアも、ウクライナ侵攻を自国民保護の「特別軍事作戦」と主張する。

 輸出相手国が、自衛権または集団的自衛権による戦争を始めた場合、日本は部品を供給して戦争をほう助することになる。それが「国際紛争を助長しない」という国益に沿っていると言えるのか。

 今回の決定の背景には、日本防衛のために次期戦闘機が必要だという前提がある。しかし、戦闘機はミサイルのプラットフォーム(発射母機)である。

 ステルス技術とミサイルの長射程化・精密化に伴い、戦闘機は、防空や対艦戦闘などの特定の任務ではなくマルチな性能を持つようになっている。既にF15、F35という戦闘機とミサイル護衛艦や地上発射型ミサイルを持つ日本が、あえて三つ目の系統となるF2後継機の次期戦闘機を持つ必要性や費用対効果を、どう考えているのか。国防本来の議論が全く欠落していることも不可解だ。

 今回の決定を含め、昨今の防衛政策の転換は突き詰めた議論を欠く。「自前の航空機開発」という願望に動かされているのであれば、壮大な無駄として国民にツケが回ってくるだけだ。


 やなぎさわ・きょうじ 1946年東京都生まれ。防衛庁(現防衛省)に入り、2004~09年内閣官房副長官補。

(共同通信)