夏の“涼”を演出 氷の彫刻


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 夏の涼を演出する氷の彫刻。丸みを帯びた曲線や立体感を強調する線彫り、細部にこだわる表現は見る者を楽しませ、涼しくさせる。彫り手の額からにじみ出る汗と飛び散る氷のしぶきが対照的だ。

 氷の柱から姿を現したのはバショウカジキ。まるで海から飛び出してきたような躍動感が伝わる。背びれの線彫りが立体感を際立たせている。氷と氷のつなぎ目はガスや水を使い、違和感なくつなぎ合わせる。
 事前の仕込みも重要だ。特に暑い夏などは大型冷蔵庫で事前彫りを行い、残りは現場で完成させる。バショウカジキは8割を事前彫りし、現場で細かい部分を彫り上げた。高さ1メートル60センチ、横幅1メートル20センチの大作が40分ほどで出来上がった。

大切なのは設計図
 大きな作品は氷を積み上げていくので、寸法を細かく決めた設計図が必要になる。A4サイズの方眼用紙に寸法や氷の柱の配置図が詳細に描き込まれている。
 氷柱1本の値段は4千円。縦の長さ1メートル20センチ、横幅55センチ、奥行き25センチ、重さは約145キロにもなる。今回はこの氷柱4本をつなぎ合わせて完成させた。

人を感動させたい
 氷を彫るのは日本氷彫刻会沖縄支部の会員ら。その中でも、中北部を中心に活動するのがアイスピープル友の会だ。リーダー的存在で料理人の島袋賀政さん(50)は彫刻を始めて25年。「人を楽しませたいというのが原点。自分たちの技術でみんなに感動を与えたいという思いでやっている」と語る。
 マカオに1年間の短期留学が決まっている娘の舞さん(20)=沖国大3年=の旅立ちを応援するため13日、自宅玄関前で氷を彫った。削りながら強風にあおられ、天候不良で雨も降った。それでも動揺することなく、冷静に彫り進めた。
 氷を彫っている父の姿を久しぶりに見たと言う舞さん。「彫っている時は普段と目つきが違う。完成品を見ていると涼しくなる」とほほ笑んだ。旅立ちを前にした粋な演出に「語学勉強はもちろん、心身共に成長したい」と決意を込めた。

料理との共通点も
 全国的にも氷の彫刻に取り組むメンバーは料理人が多い。道具の手入れ、素材の新鮮さを生かすことなど、料理との共通点も多い。
 メーンとなる氷の彫刻以外にも引き立て役として存在感を示し、場を彩る数々の作品がある。野菜や果物を素材に文字を彫ったり、模様を彫ったりする「カービング」だ。この日はトウガン、グレープフルーツの皮を余すことなく使った。宴会でも演出の一つとして用いられ大好評だ。

完成を支える人々
 どんなに冷えた氷さえも一気に溶かしてしまいそうな彫り手の熱い思い―。彫刻の完成までには多くの人の支えがある。
 確かな技術を持ち、島袋さんが信頼を置くのが新垣直人さん(40)だ。あうんの呼吸で手際よく動く。「氷の彫刻の魅力を多くの人に知ってもらい、後輩を育てていきたい」と情熱を傾ける。
 沖縄市の製氷業トップラン(東恩納学社長)からは氷柱の購入や配達の面で全面的な協力を得ている。島袋さんは「活動を続けられるのは、いろんな人の協力があるからこそ」と相手との関係を大事にしながら感謝を忘れない。
 文・大城三太
写真・諸見里真利
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魅力知ってほしい/玉城和明さん(日本氷彫刻会沖縄支部支部長)
 氷の彫刻にはいろんな魅力がある。氷の透き通った美しさ、彫った直後から解けていくはかなさもある。少しずつ変化して違う表情を見せるのが魅力だ。
 日本氷彫刻会は全国組織で沖縄支部のメンバーは25人いる。氷を使った実践講習を2カ月に1度やっている。しかし、若い会員が少なくなっているのが現状だ。会員のほとんどはホテルで料理人として働いており、なかなか自由な時間をつくれず、同時に集まることが難しい。本人が会活動に参加できるように職場環境を整えるなど、周囲の理解が必要だ。
 大きな大会は年に2回ある。夏の全国大会は上野公園で昼の時間帯に開かれ、100人が出場する。制限時間は50分しかなく、氷がすぐ解けるので速さとの勝負になる。冬は世界大会が北海道旭川の雪祭りで開催される。夏の大会とは対照的に40時間が与えられ、使用する氷柱も多めでゆっくり制作する時間がある。氷が解けない北海道では夜にライトアップするなど見せ方にも工夫がある。
 氷の彫刻はペガサス、イルカ、鳳凰(ほうおう)などいろんな題材があり、その魅力をいろんな人に知ってほしい。

夏の涼を演出する氷のバショウカジキを完成させた島袋賀政さん(中央)と新垣直人さん(左)、制作を手伝う又吉理基也さん。氷柱の花は、ドリルで彫った氷の中に絵の具を流し込んで色付けしたもの=13日、中城村屋宜
野菜や果物に彫刻する「カービング」と呼ばれる技法。トウガンやメロン、スイカやグレープフルーツを用いて、宴会をにぎやかに彩る
玉城 和明さん(日本氷彫刻会沖縄支部支部長)