漫画「キングダム」作者はサラリーマン経験も　沖縄で展示会“漫画知らなくても楽しめる空間”　原泰久さんインタビュー

　コミックス発行部数が累計1億部を超える、連載中の人気漫画「キングダム」。7国が争った中国の春秋戦国時代を舞台に、後に始皇帝となる秦の若き王が史上初の中国統一を目指す物語を描く。その世界を紹介する「キングダム展―信―沖縄会場」（主催・沖縄美ら島財団、琉球新報社、宣伝）が那覇市の県立博物館・美術館で開催されている。個展開催に憧れていた作者の原泰久さんの願望から実現に至った原画展。2021年6月に東京で始まり、沖縄会場で終幕する。原さんは「漫画を知らない人でもストーリーが分かるようになっている。ぜひ見ていただきたい」と思いを語った。

　連載は06年に週刊ヤングジャンプでスタートした。中華統一を目指す若き王「〓政（えいせい）」と天下の大将軍を志す「信（しん）」を主人公に物語が進む。連載開始から15周年の節目に、憧れの個展開催をかなえた原さんは自ら監修に携わった。

■空間で読む

　信の物語を再構築した原画展は信が登場する第1話「無名の少年」から、国内編が終わる第438話「雄飛の刻（とき）」までを詰め込んだ。「並べるだけではもったいない」と、ストーリー仕立てで歩きながら空間で漫画を読む体験ができる展示法を提案。数ある原画から「セリフを読んでほしい。知らない人でも物語が分かるように」という視点で約400点を抽出した。

　前半は「あえて抑え気味に」。最後の方はグラフィックを大きくするなど後半盛り上がっていけるよう工夫したという。信の目線で戦いを追体験できるよう戦場をパノラマで横に広げたり、ストーリーがつながるよう描きおろしのイラストを追加したりするなど、展覧会でしか味わえない臨場感が魅力となっている。

　始めるに当たっては「不安もあった」という。連載15年間で上達した作画の技術だが、開始当時は「表情が安定しない絵も多い」と原画展に堪えうるかとの懸念があった。ただ「逆に今この絵は描けない。最初の原画はむしろここでしか出せない。絵の成長過程も楽しめるという意味でさらけ出していいかな」という考えに変わっていったという。

■エンタメが上

　教科書でも学ぶ秦の始皇帝による中華統一。ただ「どうやって統一したかなど、ディテールはあまり学ばない。作品づくりで自由度が効くな」と題材にした経緯を振り返る。戦争という重いテーマだが「エンターテインメントを上に置く」ことを最初から決め、一貫してぶれずに取り組んでいるという。「世の中の不条理を描きたくなるけど、その辺は気をつけている。エンタメを外し過ぎないよう。できるだけ多くの人に読んでもらいたいので」

　一方で「ただのエンタメにならないように」ということも心がけている。作品は信を主人公に現場の目線で進行するが、行き着く先は〓政の中華統一。「〓政が成そうとする理想もちゃんと入れないといけない」とバランスを意識している。

　30歳でプロになるまで勤めたサラリーマン経験も「キングダム」には生かされている。「歴史ものは昔の話と感覚的に読者が距離を感じがち。それはもったいない」と解説し「だから現代物の感覚で描いている。言葉も現代のものを気にならない程度に意図的に入れている。今の社会に通じる作品として見られているのは、サラリーマンの経験があったからだろう」とうなずいた。

　連載については、趙（ちょう）との戦いが続く。まだ1国も制覇していないが「実は物語は後半に入っている」と明かした。趙を引っ張る将軍・李牧（りぼく）は「歴史にも残る重要人物。すごく強い。そこは存分に納得いく形で描き切りたい」と気持ちを込めた。作品が秘める潜在力は「まだまだある。映画の後半のように一番面白くなるピークに向かっている。もっと多くの人に読んでほしい」と意欲を燃やした。
　（謝花史哲）

※注：〓は「亡」の下に「口」、下に「月」「女」「迅」のツクリを横に並べる

　はら・やすひさ　1975年6月9日生まれ。佐賀県出身。大学在学中に描いた作品が第40回ちばてつや賞ヤング部門で準大賞を受賞。2003年に「週刊ヤングジャンプ」新人賞で奨励賞を受賞し、同年にデビューした。「週刊ヤングジャンプ」2006年9号から「キングダム」の連載をスタート。