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日経日本画大賞に喜屋武千恵さん、沖縄から初入選 「母性、鎮魂、祈り」をテーマに20年以上創作


日経日本画大賞に喜屋武千恵さん、沖縄から初入選 「母性、鎮魂、祈り」をテーマに20年以上創作  喜屋武 千恵さん
この記事を書いた人 Avatar photo 当銘 千絵

 21世紀の美術界を担う新進気鋭の日本画家に贈られる「第9回東山魁夷記念日経日本画大賞」で、那覇市在住の画家、喜屋武千恵さん(54)の「『共鳴―昇華』2022―2023」が入選した。同賞の受賞は県出身者で初めて。喜屋武さんは「母性、鎮魂、祈り」をテーマに、20年以上、創作活動を通して平和の在り方を模索している。

 喜屋武さんは奄美の自然を描いた日本画家、田中一村の作品との出合いをきっかけに日本画家の道を志すようになり、県立芸術大で日本画の基礎を固めた。

 卒業後、自身が何を表現したいのか迷っていた時、那覇市首里にあった旧県立博物館で17世紀の琉球絵師、自了の「白澤之図」を見て心が揺さぶられたという。

「『共鳴―昇華』2022―2023」(162×324センチ)

 「沖縄には紅型や織りなど優れた文化芸術はあるが、絵画という点では他府県に劣っているものだと勘違いしていた」

 沖縄に生まれ育ち、根を張って生活する自分だからこそできる表現を追求しようと、創作活動の方向性を定めた。自了を筆頭とする琉球絵画のルーツを探るため中国へ留学し、その成果を「琉球絵画の復興」という論文にもまとめた。

 琉球絵画復元の研究も重ねていることから、赤土や藍など県内で採取できる天然の素材や顔料にもこだわり、近年は読谷飛行場跡地から採取した赤土を顔料として用いている。

 読谷飛行場は第2次世界大戦中に日本軍が農地を強制的に接収して造り、敗戦後は米軍が使用していたが、住民の粘り強い抗議の末、2006年に全面返還された歴史を持つ。喜屋武さんはこの赤土にこだわる理由を「過酷な歴史の記憶とともに、そこに生きる人々の平和を願う強い思いと行動で取り戻すことができたという、希望のエネルギーが染みこんでいるからだ」と語る。

 母性・鎮魂・祈り―。これらは、喜屋武さんにとって揺るぎない創作テーマとなっている。中でも同氏にとって最も重要なのは「母性」であり、その象徴をソテツで表現してきた。

 「20代の頃、中城城跡で見た朱色の種子を抱いた雌株が、我が子を慈しみ抱く母の姿と重なった」といい、それ以来、多くの作品でソテツを描いている。

 今回入選した『共鳴―昇華』も、ソテツがモチーフとなっている。別々に描いた2枚の絵を組み合わせた大作は、『共鳴』(2022年)が母性、慈愛を内包し生み出すエネルギーを、『昇華』(2023年)が父性、開き解き放たれ、大きく上昇し広がりゆくエネルギーを表現した。分断や分離が続く時代だからこそ、相反するものでも互いに融合・共生する平和な社会が実現してほしいという祈りを込めた。

 「私にとって描くことは祈りそのもので、これからも鎮魂と平和への祈りを捧げていきたい」。子どもたちに希望あふれる未来を託すため、創作活動を続けていく。

(当銘千絵)