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【寄稿】人間国宝ら一世一代のように 愛知・豊田市で琉球芸能公演 阪井芳貴


【寄稿】人間国宝ら一世一代のように 愛知・豊田市で琉球芸能公演 阪井芳貴 (左)志田房子による「瓦屋」(右)金城美枝子による「諸屯」=7月20日、愛知県豊田市の豊田市能楽堂(提供)
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 7月20日に愛知県豊田市の豊田市能楽堂において、「琉球舞踊への誘い~いま届けたい 華麗な王朝の至芸~」が400人余の観客を集めて開かれた。これは、豊田市能楽堂が継続している企画「能楽堂で見る日本の伝統芸能シリーズ」の49回目としての公演であった。出演は、琉球舞踊「人間国宝」の志田房子や玉城流扇寿会家元の金城美枝子、山川昭子ほか扇寿会の皆さん、および沖縄から来られた地謡の方々で、大変充実した舞台となった。

 第一部の幕開けは、金城美枝子の「諸屯」。出羽から緊張感がみなぎり、手の指先から足のつま先まで、この舞台にかける決意のようなものが感じられた。きわめて控えめな所作から女の情念を表さねばならない作品であるが、金城はそれを身体の内から自然ににじみ出るように演じて見せた。

 次いで舞われたのは、志田房子の「瓦屋」。「諸屯」の後に見ると、曲の内容の柔らかさがより強調されるように感じられた。志田は、緊張感を感謝の気持ちに替えるかのように、しっとりと演じた。金城、志田ともに、一世一代の舞台のように、丁寧で思いのこもった深い味わいの舞台であった。

 第2部の舞台は、扇寿会の名古屋道場・豊田道場の金城美枝子門下による「かぎやで風」「高平良萬歳」「若衆ぜい」「浜千鳥」「加那よー天川」「四つ竹」とプログラムが進められた。光ったのは、山川昭子と水野桃子による「高平良萬歳」、山川と水野楓子による「加那よー天川」で、前者は組踊から独立した踊りであることを示すように、橋掛かりで組踊の唱えをした後に舞台に進むという演出を見せ、作品の成り立ちを踏まえた良い演出であった。踊りは、きびきびと要所が決まり美しかった。また後者は、山川が母であり師である金城の芸をしっかり受け継いでいることが伝わる舞台であった。水野楓子がそれに応えて、両者が遊びのある息の合った踊りで、この日もっとも客席の反応が良かった。

 最後に、「芸談のひととき~琉球舞踊の魅力」として、元NHKアナウンサー徳田章が、志田房子と金城美枝子の2人に踊りにかける思い、心掛けていることなどを聞く時間が設けられた。普段聞く機会のない琉球舞踊の名人たちの、芸にかける思いの深さが伺える趣深いお話に、観客は心打たれたようであった。

 (名古屋市立大学名誉教授)