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<書評>『フラミンゴのピンクの羽』 「文学の力」示す奇跡の物語


<書評>『フラミンゴのピンクの羽』 「文学の力」示す奇跡の物語 『フラミンゴのピンクの羽』富山陽子著 文芸社・1540円
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 文学に何ができるだろうか。ウクライナやパレスチナで起こっている戦争、辺野古を含め沖縄が要塞の島と化す現状、これらに対峙すると絶望的な気分に陥る時がある。

 本書はそんな気分を払拭(ふっしょく)してくれる。文学は奇跡を作ることができる。奇跡は感動を生み、人間を信じる力を呼び覚ませてくれる。国境や人種を越え、連帯を生み、平和を作る力の一つになる。収載された表題作をはじめ、5編の短編小説は読みやすく分かりやすい。どの作品からも生きる勇気を与えられる。

 「フラミンゴのピンクの羽」は、ひめゆりの学徒であった老女2人の沖縄戦の記憶を交差させながら、爽やかなエンディングを作る。記憶は生きる力になるのだ。「菓子箱」は秘められた親子の情愛をフィクションという小説の手法を駆使して温かく描き上げている。

 「寿々ちゃん」は劇団を旗揚げした祖父の生きざまを、孫の視点から描いた作品だ。巧みな比喩を援用して織りなす世界は隠れた心情を浮かび上がらせ、読者を幸せな気分にさせる。「ファンネルマーク」は相思相愛の若い男女が時代の波に引き裂かれた悲恋を描く。届かなかった2人のラブレターが50年後に開封される。思わず感涙してしまう出色の出来栄えだ。「外人住宅」は主人公にしか見えない幽霊を登場させた異色の作品で、謎めいた世界が魅力的である。

 作者・富山陽子が描く奇跡の物語は「文学の力」を改めて考えさせる。どれもが身近な生活の中で起こりえるかもしれない私たちの物語だ。奇跡を作る作者の手腕は、作者の心に夢やロマンがあるからなんだろう。言葉の力を信じ、人間の優しさを信じる力だ。このような力が織りなす作品が世界をつなぐ一里塚になるかもしれない。平和を作り出す可能性をも秘めているように思われる。

 富山は県内の文学賞の受賞歴も多い。自選の目で編集した初の作品集が本書である。帯文は芥川賞作家・又吉栄喜が寄せている。文学の力を改めて考えさせる魅力的な作品集となっている。

 (大城貞俊・作家)


 とみやま・ようこ 1959年生まれ。元特別支援学校教諭。「Happy Sweet Birthday」で第16回琉球新報児童文学賞、「菓子箱」で第35回琉球新報短編小説賞を受賞。「フラミンゴのピンクの羽」で第35回新沖縄文学賞受賞。