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富士通の責任焦点 システム欠陥「英最大の冤罪事件」  破産や自殺、司法の不備も


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 富士通の会計システムの欠陥に端を発した英国史上最大の冤罪(えんざい)事件が国民の注目を集めている。過去10年以上の間に700人超の郵便事業者が横領罪などで訴追され、弁済要求の果てに破産した人や自殺者も出た。事件を扱ったテレビドラマが放送され、救済の機運が高まる中、膨大な賠償リスクを抱える政府は富士通の追及を強化、責任の行方が焦点となっている。一方、システムの不具合を見逃した司法制度の不備も指摘される。

相次ぐ不幸

 「泥棒扱いされ、子どもはいじめを受けた」「宝石を売って(会計の)不足分を補塡(ほてん)した。自殺も考えた」。ぬれぎぬを着せられた被害者は英メディアにこう訴えた。
 英国では、政府が100%出資する郵便会社「ポストオフィス」と契約を結ぶ1万人以上が地域の郵便窓口業務を担う。郵便局が小売店の役割も果たし、農村部の中心的存在となっている。
 問題となったのはポストオフィスが1990年代に導入した富士通の会計システム「ホライゾン」。窓口で実際に集めた現金の額がシステム上の残高より少なかったため、99~2015年に700人超が横領や不正会計の罪で訴追され、少なくとも4人が自殺した。

名誉回復

 当初からホライゾンの不具合は指摘されたが、ポストオフィスは一貫して否定。英国では検察以外に企業が起訴などの刑事手続きを担う仕組みがあり、ポストオフィスが郵便事業者を訴追した。
 公判では、富士通でシステムを設計した担当者の「正常に機能していた」との証言が決め手となり、有罪判決が積み上がった。英紙ガーディアンは企業が事業者を刑事訴追できる仕組みがなければ、この事件は起きなかったと指摘し、司法制度改革の必要性を訴えた。
 事態が動いたのは19年だった。民事訴訟の判決でシステムのミスや不具合が認定され、名誉回復の道が開けた。英BBC放送によると、これまで93人の有罪判決が取り消された。だが、全面補償を約束されて和解した人は30人にとどまる。

テレビで反響

 民放ITVは最近、ポストオフィスと郵便事業者の闘争を描いたドラマを放送し、反響を呼んだ。泣き寝入りをしていた事業者が実態を訴え始め、スナク首相は有罪判決の取り消しや補償に向けた新法検討を表明した。
 報道によると、政府はこれまで賠償金として1億3800万ポンド(約255億円)を拠出した。ただ、高額の賠償金を税金で賄うことが疑問視されかねず、政府内では富士通の落ち度を問う声が急浮上。16日には富士通幹部が下院委員会で証言する予定で、実態解明が進むか注目される。
 (ロンドン共同=飯沼賢一)