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政府、事業再生に軸足 中小企業の「稼ぐ力」 再建支援が焦点


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 政府は、新型コロナウイルス禍で苦境に陥った中小企業の支援で、これまでの「資金繰り」から「経営改善・事業再生」に軸足を移す。実質無利子無担保の「ゼロゼロ融資」の一部返済が本格化する中、企業の再建を急ぐ狙いがある。過剰債務に対処しつつ、中小企業の「稼ぐ力」を引き出せるかどうかが焦点となる。能登半島地震の被災企業の支援も新たな課題に浮上してきた。
 ゼロゼロ融資は、政府系金融機関と民間金融機関の合計で約245万件、約43兆円が実行された。企業が売上高の減少を示すだけで借り入れることができた。返済が困難な場合は、信用保証協会が肩代わりし、最終的に回収できない場合は公的負担となる。金利分の返済は2023年5月に始まり、倒産件数は増加傾向にある。
 政府は地域経済の活性化には、中小企業を再生して賃上げを促すことが不可欠と判断。23年11月に政府と全国銀行協会など業界団体代表との意見交換会を開催し、鈴木俊一金融担当相が「事業者の実情に応じた経営改善支援や事業再生支援、再チャレンジ支援を先延ばしすることなく、一歩先を見据えて取り組む必要がある」と訴えた。ただ、債権放棄を伴う事業再生支援は、現実的には難しい。
 企業が税金を払わずに債権放棄を受けるには再生計画の策定が必要だが、特に従業員数人、売上高1億円未満の小規模企業は弁護士などの専門家に払う数百万円を負担するのが困難だ。
 小規模企業が持つ不動産物件は老朽化したものが多く、売りにくい。債権放棄を前提に経営を引き継ぐスポンサーが現れても、不採算の不動産物件が売却できなければ手続きは完了せず、再生計画は白紙となる。
 貸倒引当金を十分に計上していない信用金庫や信用組合は、債権放棄すれば損失を追加計上することになる。債権放棄には難色を示すだろう。
 残されるのは、金融機関や信用保証協会が協力して企業の損益改善に取り組む道だけだ。
 金融機関や企業には、商品やサービスごとの原価、利益率の把握が甘く、「どの商品やサービスが利益に貢献しているか」を認識していないケースも多い。金融機関と企業には、細かなデータを確認し、事業再生に向けた目線を合わせることが求められる。(共同通信編集委員・橋本卓典)