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首相捨て身 きしむ自民 麻生・茂木派反発 「俺たちは守旧派か」 派閥解散


首相捨て身 きしむ自民 麻生・茂木派反発 「俺たちは守旧派か」 派閥解散 自民党派閥解散を巡る主な発言
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 自民党派閥の政治資金パーティー裏金事件で、窮地に陥る岸田文雄首相が捨て身の覚悟で切った「岸田派解散」のカードは安倍、二階両派の解消に発展した。高まる政治不信の払拭へ意気込む首相に対し、存続論が根強い麻生、茂木両派の議員は「俺たちに守旧派のレッテルを貼るつもりか」と反発。安倍派の行方も混沌(こんとん)とし、党内にきしみが生じている。 (1面に関連)
 「攻めの気持ちで岸田派を解散するんだ。若いやつらを頼む」
 18日午後、官邸。首相は執務室に個別に呼んだ複数の岸田派幹部に迫った。隣には同派ナンバー2の座長を務める林芳正官房長官が座っていた。
 首相周辺は「派閥解散は早い段階から頭にあった」と明かす。首相には、昨年末に地元に戻った若手から「街頭で罵倒され、何も言い返せない」と悲痛な訴えが届いていた。「このままでは自民党に先はない」。首相は危機感を強めた。
 ただ党内では、岸田政権発足以来、首相を支える麻生、茂木両派の議員が「派閥に問題はない」と主張していた。悩む首相を16日の党政治刷新本部の全体会合が背中を押す。存続と解散の両論が拮抗(きっこう)したのだ。側近は「困ったら平場に聞け、の格言通り。これで解散に傾いた」と振り返る。
 岸田派は政治団体としての「宏池政策研究会」を解散し、政治資金規正法上認められる資金集めの手段を遮断する意向だ。党本部近くの派閥事務所も引き払う。首相は「もう派閥で集まることはない」と周囲に説く。
 岸田派に続き二階派も19日に解散を表明した。官邸幹部は「一つの流れができた」と胸を張る。しかし刷新本部メンバーの麻生太郎副総裁にも、茂木敏充幹事長にも根回しはなかったため、唐突感は否めない。重鎮は「あまりにも危険な賭けに出たな。『岸田離れ』が広まらなければいいが」と顔をしかめた。
 実際、麻生、茂木両派の心中は穏やかではない。麻生派幹部は「俺たちは『みんなで解散の横断歩道を渡ろう』と言われているわけではない」と突き放す。麻生氏に近い若手も「派閥が残るだけで後ろ指を指されるなんてたまったもんじゃない」と憤った。
 麻生氏と連携する茂木氏は「グループの仲間とよく相談したい」と記者団に説明。存廃の是非には触れなかったが、茂木派幹部は「良い格好をしようと岸田派だけが抜け駆けか」と批判的だ。
 会計責任者や所属していた議員3人が立件された安倍派は、中堅・若手が責任の明確化を求め塩谷立座長ら同派幹部を突き上げた。閣僚経験者は「生き残りを画策している幹部間で、醜い足の引っ張り合いと権力闘争が起きるだろう」と予想していた。
 だが19日午後、1時間半近く続いた派閥総会では「自民党が再スタートするには解散がまず必要だ」との意見が噴出。解散決定を余儀なくされた塩谷氏は終了後の記者会見で「けじめをつけなければならないと考えた」と力なく語った。
 自民は来週にも裏金事件を受けた改革案の中間取りまとめを発表する方針だ。派閥全廃はできるのか。二階派解散を宣言した二階俊博元幹事長はうそぶく。「人は自然と集まってくる。『派閥を解消するからあっちへ行け』とは言えない。別に派閥が悪かったわけでもなんでもないんだ」
記者団の取材に応じる岸田首相=19日夜、首相官邸