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社会的にも画期的出来事 日航女性社長誕生


社会的にも画期的出来事 日航女性社長誕生 記者会見で握手する日本航空の赤坂祐二社長(左)と鳥取三津子取締役専務執行役員=17日、東京都品川区
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 日本航空が鳥取三津子取締役専務執行役員(59)を4月1日付で社長に昇格させると発表した。女性登用で大きく後れを取る日本で、世界に名が通る大企業のトップに女性が就く。社会的にも重要な意義を持つ画期的出来事といえる。
 労働界では連合の芳野友子会長が2期目。政界では共産党が田村智子氏を初の女性委員長に据えた。日航に刺激を受け、各界で女性のトップ登用が増える可能性がある。
 日航の社長に女性は初めて。鳥取氏は経歴も短大卒、客室乗務員出身、元々の所属が再編で吸収された旧日本エアシステムと異例ずくめだ。
 発表はサプライズだった。日航機と海上保安庁機の衝突炎上事故から約2週間。日航機の全員脱出が世界で奇跡と報じられ、客室乗務員の事故時の対応に称賛の嵐が続く中で鳥取氏の抜てきである。話題沸騰となったのは当然だ。日航は、現在の赤坂祐二社長が整備畑。前任の植木義晴会長が元機長で、現場出身のトップが続く。現場組の士気は上がるだろう。
 しかし現実は、おめでたがってばかりいられない。奇跡の脱出の陰に隠れた形だが、日航を巡っては整備違反でグループ会社が昨年末、業務改善勧告を受けたばかりだ。
 国内線の一部で、航空法で定められた整備責任者による確認や記録を怠り、報告を受けた上司も適切に対応せず、関連記録を社内のシステムから削除していた。このほかにも、車輪にブレーキがしっかり取り付けられているか点検する際、メーカーが定めた専用工具を使用していなかったことが発覚。安全に直結する深刻な違反行為である。
 グループ会社は機体の点検整備を担う安全運航のとりで。勧告書は「安全運航最優先の意識が損なわれている」と指弾した。この会社は、日航の現社長の赤坂氏がかつて社長を務めていた。赤坂氏のお膝元で安全をないがしろにする問題が起きた事実は重い。サプライズ人事が論点ずらしであってはならない。
 製造業の品質不正など、日本企業では近年、ガバナンス(組織統治)不全に起因する重大な問題が頻発している。大企業の事業領域は広大だ。現場出身の社長は専門外の分野の知見も深め、全体を掌握しなければならない。対外的には高い説明能力も求められる。「専門外だから分からない」では済まない。
 また現場思いのあまり、現場に対して物分かりが良くなり過ぎ、知らぬ間に顧客軽視の状況が生じるようなことがあれば本末転倒である。
 日航には激しい派閥抗争の歴史がある。経営破綻後、京セラ創業者の故稲盛和夫氏が会長を引き受け、企業風土の抜本改革に取り組んだが、破綻から十有余年。巨大組織が緊張感を保ち続けるのは容易でない。新社長にとって、ガバナンスが最重要課題である。社内で地歩を固めるとともに、経済界でも実力派として評価を集め、女性社長が珍しくない時代への道筋を確かなものにしてほしい。(共同通信編集委員・宮野健男)