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<金利ある世界へ 下>日銀、利上げにトラウマ 植田氏、24年前は反対


<金利ある世界へ 下>日銀、利上げにトラウマ 植田氏、24年前は反対 日銀の国債と上場投資信託(ETF)の保有額
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 マイナス金利政策の解除に踏み切った日銀には、大規模緩和で買い入れた計600兆円超の国債や上場投資信託(ETF)が残る。金融政策の正常化完了に向け、市場を混乱させることなく資産規模をどう減らしていくのか。日銀の植田和男総裁の行く手には難路が待ち受けている。

 失策

 利上げは景気拡大期に行われるため、日銀にとっては“勝利宣言”でもある。だがバブル経済崩壊以降、2度の利上げ局面を経験した日銀には苦い記憶が残っている。
 1度目の利上げはゼロ金利政策の解除を決めた2000年8月。金融政策決定会合で当時の速水優総裁が「デフレ懸念の払拭が展望できる」と解除を提案。政府が反対する異例の展開となり、審議委員だった植田氏も反対票を投じたが、賛成多数で解除が決まった。
 しかし速水氏の見通しは外れた。解除決定後に米ITバブルが崩壊して景気が変調を来し、約半年後には再び金融緩和に追い込まれた。当時を知る幹部は「解除は失策だと批判され、国民の信頼を失った」と振り返る。
 2度目は福井俊彦総裁時代の06~07年。06年7月にゼロ金利を解除して政策金利の誘導目標を0・25%とし、07年2月には0・5%にした。しかし、この時も金融政策の正常化は果たせなかった。
 総裁を引き継いだ白川方明氏は08年のリーマン・ショックに端を発した世界的な金融危機などへの対応に追われ、後任の黒田東彦総裁が大規模緩和を主導した。
 日銀は今回こそ正常化を完了できるのか。ある幹部は「日銀は利上げにトラウマがあるから」と不安そうに話した。

 対話

 景気は決して楽観できず、個人消費は23年10~12月期まで3四半期連続で前期を下回った。主要な貿易相手国の中国も不動産市況の悪化で減速している。
 約11年に及ぶ大規模緩和で買い入れた資産の縮小も難題だ。日銀が抱える国債とETFの簿価は、大規模緩和導入前の13年3月末の126兆円から23年9月末に623兆円と5倍近くに膨張。23年の名目国内総生産(GDP)の591兆円を超える規模となった。
 623兆円のうち586兆円は国債。時価ベースで発行残高の約5割を日銀が抱えるいびつな構図だ。日銀はETFを通じて上場企業の株式も間接保有する。ニッセイ基礎研究所の試算では、今年2月末時点で保有比率が10%以上の企業は69社に及ぶ。
 日銀が市場に大きな影響力を持つだけに、植田氏には市場との対話能力が求められる。植田氏はマイナス金利解除を決めた後の記者会見で、市場に混乱が生じなかったことを「よく考え、さまざまな情報発信をしてきた。ある程度は(混乱回避の)役に立った」と自賛した。
 ただ2月22日の衆院予算委員会では、日本経済が「インフレの状態にある」と急にアクセルを踏み込んだ。わずか1カ月前の会見では「デフレの状況とは、もうかなり遠いところに来ている」と答えただけに、市場関係者を驚かせた。日銀の事務方も慌てて「事前に用意していないイレギュラーな発言」と政府関係者らに説明して回った。
 かつて植田氏とともに審議委員を務めた須田美矢子氏(キヤノングローバル戦略研究所特別顧問)も植田氏の発言を不安視する。「これまでも正直すぎて市場を混乱させたことがあった。自身の発言が市場を動かすことをもっと自覚すべきだ」