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人権侵害ないか注視を 市民運動萎縮の恐れ 土地規制法が運用本格化


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 在日米軍基地や自衛隊駐屯地など安全保障上重要な施設などの周囲を対象に、土地建物の利用状況を調査・規制できるようにした「土地利用規制法」(重要土地等調査法)に基づく区域指定が4月に終了した。
 今回の4度目の指定では、米軍普天間飛行場や東京都の横田基地、各地の原発の周囲など計184カ所が「特別注視区域」や「注視区域」に追加され、指定対象は計583カ所となった。政府は今後、全国で調査を本格化させる。
 同法は重要施設などの機能や運用を妨げる恐れのある行為(機能阻害行為)を防ぐことが目的で、施設の周囲約1キロを注視区域などに指定。政府が区域内の土地建物の所有者や利用者、利用状況を調査したり、機能阻害行為と判断した利用に中止の勧告や命令を出したりできるようにした。中止命令に従わない場合には2年以下の懲役といった罰則規定がある。
 司令部機能を持つ施設周辺である特別注視区域では、200平方メートル以上の土地などを売買する場合、事前の届け出も義務化された。
 政府は調査に関し「収集する個人情報は必要最小限の範囲だ」(内閣府)とするが、条文上の歯止めはない。なし崩し的な適用により、土地利用者個人の職歴や犯罪歴、交友関係、思想・信条にまで対象が拡大する可能性も払拭できない。
 このため、基本的人権を侵害する恐れが強く指摘されている。市民団体関係者らは「反基地や反原発の市民運動を萎縮させることが真の狙いではないのか」との疑念を抱く。
 政府は機能阻害行為も「個別に判断する」として、どんな行為が該当するか明確にしておらず、東京弁護士会は「罪刑法定主義に反する」と批判している。裁量で反基地デモの抑圧などに中止命令が活用される恐れも否定できない。
 この法律は2021年通常国会最終日未明、立憲民主党や共産党が「審議不十分だ」と採決に反対する中、参院本会議で採決が強行され成立。22年9月に全面施行された経緯がある。
 もともとは外国資本による土地買収に対する安保上の懸念が立法の出発点だったが、売買を阻止する規定が盛り込まれなかったため「実効性がない」「羊頭狗肉(くにく)だ」との批判もある。
 施行後5年の見直し規定を付則に設けているが、政府には5年を待たず廃止や抜本改正を強く求めたい。調査の本格始動に伴い関係機関による人権侵害が生じることのないよう、関係自治体や議会、市民は法の運用を注視していくべきだ。
 かつて政権与党の中枢にいた漆原良夫元公明党国対委員長は戦前の治安維持法も念頭に「法律は作ったら(立法者の意思を離れ)拡大される恐れがある」と、歯止めの必要性を指摘する。単なる杞憂(きゆう)ではない。
 (共同通信記者・阿部茂)