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広がる節約、販売苦心 プラス転換見えず 実質賃金減、最長


広がる節約、販売苦心 プラス転換見えず 実質賃金減、最長 「ベニースーパー」で野菜のばら売りなどの販売戦略での苦心を説明する赤津友弥本部長=2日、東京都足立区
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 前年同月と比べた実質賃金の減少期間が2年に達し、過去最長を更新した。賃金が十分に伸びない中、物価は上がるばかり。一般家庭には節約ムードが広がり、小売業者も値上がりが目立たないよう販売戦略に苦心する。春闘の好調ぶりからはプラス転換が期待されるが、物価は高止まりの気配も漂い先行きは見えない。(1面に関連)

聖域

 2日、東京・足立区の「ベニースーパー」。女性客(83)が手に取った野菜の値段を見て、棚に戻した。見切り品を選ぶことも多く「さらに価格が上がると困る」。未就学児を連れた女性(34)も「なるべく安い物を買う。油を使わず肉の脂で代替、肉料理は豆腐でかさ増しもする」と話した。
 店舗の運営会社によると、物価高の影響もあり売上総額は微増。客1人当たりの購入品数は減少傾向だ。肉は大容量にして1グラム当たりの単価を抑えたり、逆に野菜はばら売りにしたり。中間流通業者を減らすことも含め、あの手この手で高くなったと思われない工夫を凝らす。それでも燃料費が高く経営は厳しい。
 赤津友弥本部長(50)は、卵や牛乳、食パンなど生活必需品はスーパーとしての「聖域」と表現し、値段を抑えようとしてきたと語る。「それも守るのが難しくなってしまった。余力はスーパーにも、生産者にもない」とこぼした。
 
格差も
 
 2023年度の消費者物価指数で、生鮮食品を除いた食料は前年度から7・5%上がった。家計の消費に占める食費の割合を示す「エンゲル係数」(23年)は27・8%で40年ぶりの高水準となった。
 食料品は輸入依存度が高く、国際情勢や為替相場に左右されやすい。ロシアによるウクライナ侵攻の長期化などが暮らしにも響いた。円相場は4月下旬に1ドル=160円台まで下落後、急反発。今後も目が離せない。
 実質賃金のプラス転換へ鍵を握るのは賃上げだ。終盤に入った今春闘では33年ぶりに賃上げ率5%台達成が確実視される。ただ官民の各種調査で、大企業に比べ中小企業は賃上げの実施率や引き上げ幅でやや見劣りする。勤め先の規模や業績により、家計に格差が生まれる可能性が出てきた。

予想難しく

 首相周辺は、実質賃金が過去最長のマイナスとなったことに「賃上げの結果が出てくるには時間がかかる。しょうがない」と話した。一方で、厚生労働省幹部の受け止めは少し異なる。「3月分にもある程度(賃上げの)傾向が見えると思っていたんだが…。物価が高いとどうしようもない」。想定より悪い結果だったと示唆した。
 今後の動向は専門家にとっても予想が難しいようだ。法政大の山田久教授(労働経済)は賃上げは徐々に進んでいるとしつつ、円安の影響で物価が高止まりしていることから「十分ではない」と現状を分析する。
 春闘の情勢を踏まえれば、夏場にも実質賃金がプラスに転じる可能性はあるものの「若手に比べて中高年の賃上げは進んでおらず、中小企業にどの程度、波及しているかも分からないところがある。現時点で確実なことは言えない」と話している。