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国内初の国際認証を取得「MRO Japan」 キャリア支援で専門人材育成 那覇空港から国際市場へ<Who強者How強者 沖縄企業力を探る>10


国内初の国際認証を取得「MRO Japan」 キャリア支援で専門人材育成 那覇空港から国際市場へ<Who強者How強者 沖縄企業力を探る>10 事業拡大へ社員のキャリア支援の重要性を挙げるMRO Japanの高橋隆司社長=9月10日(ジャン松元撮影)
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 航空機の数とその整備需要が伸びる東アジアの中心に位置する環境を生かし、国内唯一の航空機整備専門会社として2015年に立ち上がったMRO Japan(那覇市、高橋隆司社長)。22年10月には重整備を含む航空機整備事業場として、国内で初めて欧州航空安全庁(EASA)の認証を受けた。

 EASAは欧州連合(EU)の民間航空機産業の安全管理や規制などを行う機関。MJPは創業当初から取得を目標とし、5年以上をかけて取得にこぎつけた。那覇空港を拠点に、国内だけでなく国際市場を取りに行く戦略を前進させる大きな目標を達成。これを機に海外のエアラインからの整備受託が可能となった。早速、スイスを拠点にVIP向けチャーター便を運航するコムラックスから整備委託先に指定され、MJPとして初のビジネスジェット整備を受託した。海外機材の整備実績を積み上げるなど認証の取得は事業拡大への弾みとなっている。

■スキルアップ体制

 専門知識が求められる業界で、充実させているのが社員の学習環境だ。一等航空整備士の取得には、入社後最短でも5年程度は必要とされる。国土交通省が実施する合格率約20%の学科試験を突破しても、さらに2年以内に10を超える試験に全て合格できなければ始めから「やり直し」となる難関資格だ。

 それを支えるため、社内には約30人が個別のブースを使える24時間対応の「学習室」を整備している。最近は創業時に入社した初期メンバーたちが、後輩の資格取得をサポートする徒弟制度的な環境もあり、人材育成の取り組みは結実し始めている。24年段階ではプロパー社員8人が一等航空整備士を取得した。

解体した飛行機のプロペラ近くを整備するMRO Japanの従業員=9月10日、那覇空港内の同社

 そのほか一級塗装技能士1人を育成するなど塗装技術も強みの一つ。一般的な機体塗装の請負業務だけではない。海外エアラインが機体にキャラクターの特別塗装をする際には現地に整備士を送り、アドバイスする技術コンサルティング業務を受託。収入源の多様化が進んでいる。

 技術水準を維持するため、毎年30人ずつを計画的に採用し続けてきた。高校生から大学生まで、専攻学科も絞らないのが特徴だという。現在の社員数は地元採用の「プロパー組」が200人まで増え、うち90%を県出身者が占める。

 高橋社長は国家資格や社内資格などへの手当支給や人事評価制度を通して、キャリア形成を後押ししていくと説明。「会社設立時からANA出向者のスキラー(技術者)を送り続けてきたが『われわれ(ANA組)はいつまでもいない。あなたたちがいつか会社を回していかないといけない』と言い聞かせている。いずれはプロパー社員から管理職、役員が生まれることが目標だ」と話す。

■事業領域が拡大

 キャリア支援の取り組みが奏功し、離職率はかなり低い。沖縄は「3年内離職率」が全国よりも高いことで知られるが、全国平均が高卒、大卒で30%台なのに対し、MJPは高卒15.7%、大卒9.5%に抑えられている。

 MJPが新たな事業領域と見据えるのは機体の「重整備」を超えた「大改修」だ。今年4月には大手航空機メーカー「エアバス」の機体改修で世界的な中核企業のエルベ・フルクツォイヴェルケ(EFW、ドイツ)とパートナーシップに関する基本合意を締結した。EASA取得の“果実”だ。エアバスの旅客機を貨物機に改修する「P2F」事業に乗り出す予定で、早ければ25年秋ごろに体制を整え、改修作業を始める。エアバス機のP2Fを請け負うのは世界でも5社目で、国内では初めてとなる。

真剣な表情で航空機整備をするMRO Japanの従業員=9月10日、那覇空港内の同社

 別の新事業領域と位置付ける「リース返却整備」も、今年11月にスターフライヤーのリース返却機を初めて迎え入れる予定で、受託事業を着々と拡大させている。スターフライヤーは国内の航空会社だが、EASA取得によって技術水準の信頼度が高まった結果、受託が決まった。

 「従業員が『ここにいて良かったな』と思える環境は大切だ。数年前にちょっと頼りない感じで入社した若者が難関のライセンスを取り、自分の成長や会社の成長を感じ、『沖縄のために』と口にするわけですよ。それは感動しますよ」と高橋社長。事業拡大を見据え、そのエンジンとなる専門人材の育成に抜かりはない。

(島袋良太、與那覇智早)


<用語>MRO

 MAINTENANCE(メンテナンス、整備)、REPAIR(リペア、補修)、OVERHAUL(オーバーホール、分解・修理)の頭文字で、航空機整備を専門とする業態。航空機整備は、出発前点検、燃料補給やおおむね1カ月ごとのエンジン点検などの「運航整備」と機体を格納庫で長期間調べる「重整備」に大別される。