県内で暮らしていたタレントの高見知佳さんがお元気だった頃、ある小学校の母親学級で絵本「おこだでませんように」の読み聞かせをしてもらったことがある。
高見さんは確か50代だったと思うが「ぼくはいつもおこだでる…」と始まった声はまるで小学生の男の子だった。
この絵本は母親や先生からいつも怒られてばかりいる男の子が七夕の短冊に「おこられませんように」と願いを書く物語である。あれがほしいこれもほしいではなく、ただの一度でも褒められたいと願う男の子の気持ちを高見さんが言葉にのせてくる。何度も何度も読まれているのだろう、一度も本に目を落とさなかった。
そこに参加していた母親たちは皆、涙を浮かべていた。わが子を思い反省を繰り返し、親もまた親になっていくのである。終了後、市の規定で薄給しか出せない学校側は非常に恐縮していたが、彼女は「少しでも頂くことが申し訳ないんです」と笑顔で返していた。
以前いた小学校で相談室にきた6年の男子が「家に帰りたくない、親からマジで嫌われている」と言う。私はその日のうちに母親と連絡を取り「お母さん、今日は〇〇君に大好きだよと必ず言ってハグしてあげて。何ならお母さんの膝に座らせてもいいから」と伝えたことがある。母親よりずうたいのデカい子であったがそんなことは関係ない。事情を話すと電話の向こうでハッとされていた。親ですら子どもの寂しさに気づけない時もある。
作家の三浦綾子さんは「自分が幸せかどうかより、周りにいる人が幸せであるかを問いなさい」と記している。私には、到底及ばない心情である。