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「取り残さず」日本語教育


「取り残さず」日本語教育 「生野こもれび保育園」で保育補助職員として働くチン・ティ・フエン・チャンさん
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 住民の5人に1人が外国籍の大阪市生野区に、約半数の園児が外国籍か海外にルーツを持つ「生野こもれび保育園」がある。ベトナム人労働者の親と来日した子どもが大半で、日本語が十分に話せない。辻本慶子園長(72)は「このまま小学校に進むと、適応できずドロップアウトしてしまう」と、就学前の日本語教育にも力を入れる。

大阪・生野の保育園 園児の半数が外国ルーツ
 「しは、シカのし」。毎週月曜日の朝、30分程度、日本語学習の時間がある。日本語が不自由な園児が対象で、毎週約10人が参加する。2023年春から始めた急ごしらえのプログラムで、机と椅子を並べた女子更衣室が臨時の教室だ。ベトナム語を付けた絵カードなど教材は手作り。広中大輔副園長(29)は「日々手探りです」と話す。
 ある日の昼の給食はベトナムの麺料理「フォー」だった。5歳児の教室では、日本やベトナム、中国などさまざまな国籍の園児たちが同じテーブルに並び、「ベトナムうどんや」「うち、家で食べたことある」「野菜嫌いやねん」などと関西弁で話しながら、仲良くにぎやかに食べていた。
 園では3年ほど前からベトナムにルーツを持つ園児が急増した。生野区は町工場や倉庫が多く、家賃や物価が大阪市内でも比較的安いことからベトナム人労働者が多い。同区周辺には外国人留学生が通う日本語学校もある。園児98人のうち半数近くがベトナム人で、中国や韓国の子もいる。
 文化の違いなどから、3歳以上でもミルクを飲む園児もいる。両親が母国語を使うため、日本語の理解も遅れがちだ。特に課題なのは、小学校入学が間近の5、6歳の園児だ。入学早々から授業についていけず、コンプレックスを抱え、非行に走る例も多いという。
 園は23年春、系列の日本語学校を卒業した元留学生のチン・ティ・フエン・チャンさん(23)を保育補助職員として採用した。保育や通訳以外にも、保育士と親の間に入り、園児の様子や必要な連絡を伝えるなど、欠かせない存在だ。チャンさんは「特に困るのは園児が病気になった時。今後は保育士の資格を取得したい」と話す。
 生野区では元々多かった韓国・朝鮮籍住民に加え、インドネシア、ミャンマー、ネパールなどの住民も増え、多国籍化が進む。辻本園長は「今や農業や製造業などで働く外国人労働者がいないと日本人の生活は成立しない。彼らやその子どもに住民として永住してもらえるよう、社会が受け入れ、国や行政にはサポートをお願いしたい」と話している。