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「バッテリー人材」育成を 近畿圏 高校などで専門教育


「バッテリー人材」育成を 近畿圏 高校などで専門教育 高校生や高等専門学校生向けに開かれた、小型リチウムイオン電池の製造実習 =3月、大阪府池田市
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 電池製造業の出荷額で全国シェアの4割近くを占める近畿圏で「バッテリー人材」と銘打った専門教育が始まった。需要が急増する電気自動車(EV)向けなどリチウムイオン電池の生産基盤強化の一環で、産官学が協力し高校生や大学生に教育プログラムでPR。成長が見込める分、競争が激しい分野の人材確保を全国で進めていく考えだ。

 ■就職の選択肢

 「電極を作るのにも化学の基礎が大切だと感じた。こんなに将来性のある業界だとは思わなかった」。兵庫県立姫路工業高校3年の藤本京珠さん(17)は3月下旬、産業技術総合研究所関西センター(大阪府池田市)で開かれた小型リチウムイオン電池の製造実習に参加。材料の粉をかき混ぜて負極板に塗り、完成した電池でミニ四駆が走ると歓声を上げた。
 実施主体の「関西蓄電池人材育成等コンソーシアム」には産総研のほか、電池メーカーや京都大、自治体など46の法人や団体が名を連ねる。電池の製造工程に加え、市場の成長性や日本企業の強みを紹介した100ページ超の教材も用意。2024年度から石川県や長崎県など1府5県の工業高校、高等専門学校の計14校が授業に取り入れ、全国への拡大を目指す。
 姫路工業高校工業化学科の宇都宮英人科長は「化学だけでなく機械、電気などあらゆる学科で使える内容だ」と評価。デモ授業を実施後、生徒の多くが就職の選択肢として地元の電池関連企業を考え始めたという。

 ■競争力の源泉

 人材育成に力を入れる背景には、世界との厳しい競争がある。車載用リチウムイオン電池はかつて日本メーカーの独壇場だったが、市場の拡大に伴い中韓メーカーに追い抜かれた。半導体など産業間での人材獲得競争も起きており、熊本大は4月、半導体教育に特化した学士課程を新設した。
 政府の戦略では、現在は20ギガワット時程度とされる国内製造能力を30年までに150ギガワット時に拡大する必要があると指摘。蓄電池の世界シェアで日本企業が20%を占めるために、機械設備や材料開発などサプライチェーン全体で計3万人の人材確保を目指している。 
 経済産業省の真柳秀人電池産業室長は「興味を持った生徒の受け皿がないと、はしごを外してしまうことになりかねない」と産業界に要求。プログラムを履修した生徒へのインターンシップ(就業体験)の優先受け入れを提案する声も出ている。業界団体「電池サプライチェーン協議会」(東京)の森島龍太業務執行理事は「人材は競争力の源泉。産業界も100%コミットする」と前向きだ。