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競争原理導入、現場は疲弊 国立大法人化20年 交付金減額に批判 国はバランス取れた支援を


競争原理導入、現場は疲弊 国立大法人化20年 交付金減額に批判 国はバランス取れた支援を 運営費交付金の推移
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 文部科学省の内部組織だった国立大が2004年4月に法人化してから20年がたった。競争原理の導入が大きな目的で、予算の使い道などで裁量が広がり、特色ある教育・研究に取り組みやすくなったとも評価される。一方、人件費などに充てる交付金は減額が続き、現場は疲弊。「腰を据えた研究ができない」との批判が絶えない。
 国立大は現在、全国に86校ある。「競争的環境の中で世界最高水準の大学を育成する」との政府方針により、03年に国立大学法人法が成立、翌年に新体制がスタートした。教授会中心だった運営は学長を頂点とするトップダウン型に変わった。
 学長経験者によると、「文科省へのお伺い」が必須だった時代に比べ、学生支援センターのような新組織設立の際に自由な教職員配置が可能となった。外部理事らの意見を反映し、独自性のある事業も増えた。
 一方で財政面は不安定になり、運営が厳しくなったとの見方が多い。大学の規模に応じて配分される「運営費交付金」の仕組みが導入されたが、少子化や国の財政難などを理由に縮小が続いた。24年度は総額1兆784億円で、04年度に比べて13%も減っている。
 文科省は、交付金に頼るのではなく自主財源の拡大を要求。研究者らが応募して獲得を競う「競争的資金」や、民間との共同研究による財源確保を挙げる。19年度からは、経営や研究の成果に応じ、交付金の傾斜配分割合を高めた。医学部を持つ大学では、臨床研究より診療を重視して付属病院の収入が倍増したとの証言がある。法人化当初、国立大予算における運営費交付金の比率は半分ほどだったが、現在は3割まで低下した。
 同時に、各校はコストカットへ教職員削減などを進めた。
 北海道大の教授は「補助金獲得のための書類作成といった事務作業に忙殺され、受け持つ学生数も増えた」と嘆く。研究室の予算は20年間で4割減った。夏場は電気代で予算を使い切る研究者もいる。「『稼げる研究』が最優先になった」とも語り、基礎研究を軽視し独創的な発想が生まれづらいとする。
 国公私立大全体の研究力低下を示す指標がある。科学技術・学術政策研究所によると、国際的注目度の高い論文数で日本は19~21年の年平均が3767本。約20年前は4位だった国際順位が過去最低の13位になった。
 政府は巻き返しに向け、10兆円規模の基金からトップ層の大学だけに巨額の支援をして世界水準の研究成果を目指す「国際卓越研究大学」制度を創設した。だが関西の国立大教授が「必要なのは全体の底上げだ」と話すように、格差拡大への懸念が強まっている。

 金子元久・筑波大特命教授(高等教育論)の話 法人化は自分たちが望んだものではなく、文部科学省と国立大は「大学はどうあるべきか」という明確なビジョンを持たずに改革を進めてきた。その結果、大学の体力は低下した。国立大には研究だけではなく、学生への教育を充実させるという重要な役割がある。大学が弱体化して教育がおろそかにならないよう、国は、もっとバランスの取れた支援をするべきだ。一方、減額が続いているとはいえ、多額の税金が投入される国立大にも、多様化する社会のニーズに応える義務がある。責任を自覚し、学部構成などの見直しを絶えず進めなければならない。

 国立大の法人化 政府の中央省庁改革推進本部が1998年、行政スリム化を目指して提唱し、2004年度に始まった。旧文部省や大学側は当初反対したが最終的に受け入れ、計約12万人いた教職員は非公務員となった。文部科学相が大学ごとに運営や教育研究の指針となる6年間の中期目標を策定することになり、原案は各校が作成する。運営の透明性を確保するためとして、重要事項を審議する「役員会」や経営面を審議する「経営協議会」が設けられ、外部有識者の参加が義務付けられた。