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専門高校で「多面的学び」 北海道・静農の野坂農場長に聞く


専門高校で「多面的学び」 北海道・静農の野坂農場長に聞く 「自宅から通えない生徒たちは、親元を離れてやって来る。中学生にとって、大きな決断です」と話す北海道静内農業高農場長の野坂渉さん
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 地域産業を支える役割を果たしてきた農業や工業などの専門高校だが、普通科志望者の増加で生徒数に占める割合は減少している。社会情勢が変化する中で、全国から生徒が集まる北海道静内農業高(静農、新ひだか町)の野坂渉農場長は専門高校が果たす役割を「多面的な学び」だと語る。 
 静農には、馬について学べる生産科学科「馬事コース」があります。全国の公立高校で唯一、競走馬の種付けから出産、トレーニングまでを経験し、競りにもかけます。北海道から沖縄県まで全国から生徒が来ますが、多くのきっかけは「馬について学びたい」。ただ例年、実際に馬に触れてみて「ちょっと違うな」と感じる生徒もいます。きっかけは馬でも、専攻は園芸コースを選択する生徒もいます。
 静農の特徴として、学校内の授業に加え、企業や牧場、農家での実習を約半年間経験するデュアル派遣実習があります。週1日の選択科目ですが、季節で移ろう仕事内容を長期間実践的に学べる機会は貴重です。これは、地域の生産者さんらの協力なしにはできません。担い手不足が顕在化する中、静農への期待も高まっていると感じます。
 2021~23年度には国の「マイスター・ハイスクール」事業の指定を受け、社会の現場で活躍する人々による講義や実習など企業や大学、関係機関との連携を深めることで「主体的、対話的で深い学び」が実現できました。こうしたさまざまな学習機会の確保により、生徒には就農を含めた進路や生き方を考えるきっかけとなったようです。指定が終わっても、共同体を組織してそのつながりを存続させます。
 農業高校というと卒業後はすぐに就農するイメージが強いかもしれませんが、最近では大学に進学する生徒も少なくありません。また、農家の跡取りばかりが在籍するわけでもなく、農業以外の家庭に育った生徒も多数います。
 生徒の志望動機も多様化しています。馬を学びたい子もいれば、近年目立つのが「自然が好き」という声です。時代の潮流も考慮しながら(温室効果ガス排出量が実質ゼロの)カーボンニュートラルを目指す取り組みや、規格外トマトを使ったレシピコンテストの主催など新たな分野にも挑戦しています。
 農高に限らず専門高校は普通科に比べ大学のゼミのような授業が多く、机上だけではない、いわば多面的な学びが可能なところが面白さだと思います。農業高校での3年間は、社会の未来をつくる上で有益な経験となるはずです。 (談)