20年以上にわたりウィーン・フィルハーモニー管弦楽団で首席チェロ奏者を務めるタマーシュ・ヴァルガの沖縄初公演(ビューローダンケ主催)が5月23日、那覇市のパレット市民劇場で行われた。ピアノ三重奏団「葵トリオ」の秋元孝介と共演し、アンコール含め9曲を聴かせた。世界レベルの2人が互いに混ざり溶け合う瞬間、主張する瞬間を観客は凝視し、その世界観に心を奪われた。
幕開けはバッハ「無伴奏チェロ組曲 第1番 ト長調」。CMでもよく使われる前奏曲とヨーロッパ各国をイメージした五つの舞曲で構成。ドイツ風は流れるようなテンポで、イタリア風は跳ねるように、スペイン風はゆったりと荘重に、フランス風は自由で優美に、イギリス風は小刻みに陽気に、特色を表現した。巧みに弾き分けた演奏に満足感があった。
20世紀の曲であるドビュッシー「チェロ・ソナタ ニ短調」は、クープランなどフランスのバロック音楽の自在なテンポと優美さを理念にしたとも言われる。即興的要素に富んだ曲を2人は高次元で演奏した。1楽章は格調高いハーモニーだが何かが起こる予兆を感じさせ、2楽章で即興的に走り回るかのような音の戯れが現れる。3楽章で異国情緒を感じる旋律と情緒の起伏が激しい曲調を混ぜる。
予定調和なく、互いのソロがぶつかりながら融合するかのようなハイレベルな応酬に観客は息をのんだ。
一転して、サン=サーンス「白鳥」では2人の音色が穏やかに溶け合った。チェロの伸びやかな高低音のメロディーが白鳥の優雅な動きを、ピアノのピュアな音色がきらきらと輝く水面をイメージさせ、観客は酔いしれた。
アンコールの最後はカタルーニャ地方の民謡「鳥の歌」。1971年、国連で平和への祈りを込めてカザルスが演奏した曲だ。哀愁漂うどっしりとしたメロディーに安定感があり、音の数こそ少ないが、寡黙な演奏ゆえの説得力を感じた。
終演後は拍手が鳴りやまず、観客の感動する様子があった。
(嘉手苅友也)