[日曜の風]ラグビーW杯 国籍を超えたチーム


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 世界三大スポーツの祭典の一つである、ラグビーワールドカップが9月20日から開幕しました。11月2日までの約1カ月半近くにわたって、日本のあちこちでさまざまな試合が行われます。先日、日本代表がアイルランド代表を破ったことが大きなニュースとなり、一気にラグビーに関する話題が増えてきて、ラグビー好きの私としてはとてもうれしい状況です。

 さて、日本が破ったアイルランドですが、ワールドカップ開幕前の世界ランキングはアイルランドが1位、日本は史上最高の9位タイという状況でした。ラグビー伝統国でもあり強豪国の一つに勝利したことは、大金星といえます。

 そのアイルランド代表ですが、試合前に歌っているのは国歌ではなく、「アイルランズ・コール」という歌なのです。このチーム、実はイギリス領北アイルランドと、アイルランド共和国の統合チームで、アイルランド島全体の代表ということになります。ラグビーには、イギリス国代表というチームは無く、イギリスが関係している代表はイングランド、ウェールズ、スコットランド、そしてアイルランドというチームになります。

 ラグビーは歴史的にみると、19世紀半ばのイングランドで、イギリスの支配階級のためのエリート教育に向いていたために発展したスポーツでもあり、そのような教育を受けたエリートたちが植民地などに赴きラグビーをすることになった際に、代表資格に厳密な国籍を求めることに反対した経緯があります。そのために国籍は重く見ずに、所属する協会(ユニオン)代表という性格が強くなり、今でもその伝統を守っています。

 その一つであるアイルランドは、何世紀もの間、激しい宗教的・政治的紛争が繰り返されてきたため、南北で敵対感情が残っているといいます。1921年に終わった激しい内戦の結果、南部の独立が決まりましたが、アイルランドラグビーフットボール協会は新しい国境を無視することに決めたのです。暗い歴史も併せ持ったチームですが、ラグビーでは統合チームが可能というのも、このスポーツを楽しめる興味深い点ではないでしょうか。

(谷口真由美、法学者・全日本おばちゃん党代表代行)