介護や医療費増加で財政ひっぱく 基金崩しても財源不足 市長公約の給食費無償化は困難に… 宜野湾市に求められていることは…


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 【宜野湾】松川正則氏が宜野湾市長に就任し1日で1年を迎えた。松川氏は昨年9月の市長選公約で小学校の給食費無償化や、高齢者の体育施設利用が無料などになるシルバーパスポート事業拡充を掲げたが、厳しい財政状況から事業を見直さざるを得なくなっている。貯金に当たる基金を取り崩しても来年度予算の財源が不足する「これまでにない非常に厳しい状況」(市)だ。来年度から事業廃止や市民負担の発生もあり、市の行財政は転換点を迎えている。

 市が日本能率協会総合研究所に委託し3月に策定した「市行財政改革調査・検証等業務報告書」によると、さまざまな事業に充てられる財政調整基金は2015年度の26億7637万円(決算ベース)をピークに年々減少。18年度は当初予算ベースで17年度より57・9%少ない8億7064万円の残高となっている。

 20年度予算編成に向け基金を崩しても、十数億円の収入が不足する見込みという。将来の財政推移は歳出が歳入を上回り、28年度で約48億円の赤字、累積損益は311億円と見込む。行財政改革は待ったなしだ。

 ■重なる支出

 佐喜真淳前市長が12年2月に、27年続いていた革新市政から市政を奪還し、市はそれまで凍結などになっていた事業に着手した。米軍普天間飛行場東側の市道宜野湾11号整備や、普天間と真栄原両地区の商業施設を再興する「普天間飛行場周辺まちづくり事業」、志真志小の増改築やはごろも小新設などが主としている。

 市は、国へ高率補助を要請したり、基地所在市町村に支給される特定防衛施設周辺整備調整交付金(9条交付金)を増額してもらったりして財源確保を図った。高率補助の防衛施設周辺整備統合事業費補助金により、老朽化した上大謝名と長田の両公民館整備にも至ることができた。

 各事業を進めることになったが、「予想しなかった急激な伸び」(和田敬悟副市長)のあった介護や医療など扶助費の支出が年々増加。また老朽化で壁剝離(はくり)などの危険性がある普天間小や中原・新城両公民館の改築など、多額の支出が伴う喫緊の課題も浮上した。

 ■取捨選択

 現状を受け、市は「市行財政改革・集中改革方針2019」を4月に策定。一般財源から支出の大きい既存事業の必要性を精査し、新規事業は緊急性のない場合などに限り実施しない方針だ。市伊佐にある勤労青少年ホーム・勤労者体育センターで実施されてきた教養講座などは廃止となる。20年度から国民健康保険税は上がり、下水道使用料金の見直しも実施する。

 松川氏は「大変厳しい状況だが、事業の選択をせざるを得ない。緊急性のあるものは優先しないといけない」と話す。市関係者は「財政は厳しいが公約で給食費無償化などを掲げたのは、佐喜真氏の後継として同じ公約を掲げざるを得なかったのだろう」「行政マンとして10年先を見越している」と受け止める。

 一方、公約で掲げた給食費無償化の見直しについてある40代女性市民は「子どもがいる家庭で無償化は大きい。松川氏に期待して投票したが、裏切られた感がある」と不満の声を上げた。市は市民に丁寧な説明をする必要があるだろう。

 琉球大学の獺口浩一教授(財政学)は、扶助費の増加が財政を圧迫していることに「市に限らず全国の自治体で大きな問題としてある」と前置き。普天間飛行場が街の中心に位置する特殊事情を抱える市は「ほかの自治体と同じように道路を造るにしても迂回する必要があり、コストがかかる要因はある」と指摘する。

 また獺口教授は、国の高率補助事業について「市側の裏負担やランニングコストもあり、過度な行政サービス提供になる可能性もある。制度は慎重に扱う必要がある」と警鐘を鳴らす。その上で「身の丈に合った範囲で行政サービスを提供することが求められる」と強調した。
 (金良孝矢)