関西電力の闇 カネ掴ませ運命共同体に<佐藤優のウチナー評論>


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 関西電力(関電)をめぐる深刻な不祥事が発覚した。9月27日に関西電力の岩根茂樹社長が記者会見を行い、岩根社長、八木誠会長を含む役員ら20人が2018年までの7年間に、福井県高浜市の森山栄治元助役(今年3月に90歳で死亡)から計3億2千万円分の金品を受け取っていたと発表した。

 本件に対する安倍政権の反応は素早かった。菅原一秀経済産業相は、同月30日午前、記者団の取材に対して「外部の目、第三者的な視点からしっかりとした原因究明にあたり、徹底してうみを出し切る」と述べた。菅原経産相が「徹底的にうみを出し切る」と述べたことは、関電幹部を切り捨てるとの意思表示だ。しかし、関電幹部はこのシグナルを正確に読みとることができなかった。

 マスメディアの報道から判断すると、関西電力幹部が原発工事で関連企業に巨額の発注を行った見返りにキックバックを受けた事案のようだ。しかし、冷静に考えると奇妙だ。関電幹部は十分な報酬を得ている。このような不透明なカネを受領(じゅりょう)したことが表に出ると大スキャンダルになり、失脚しかねない。

 実際に10月9日に八木会長、岩根社長ら7人の役員が辞任、失脚した。このようなリスクのあるカネを受け取るのは合理的でない。しかも、カネは関電が預かっており、個人の口座には入っていなかったようだ。このカネはキックバックではないように思える。常識とは異なるカネの流れがあると筆者は見ている。その根拠は筆者が外務官僚だったときに常識とは異なるカネの流れを何度か目撃したことがあるからだ。

 例えば、官僚が新聞記者に、政治家が官僚に秘密文書と一緒にカネを渡す事例があった。新聞記者も官僚もカネには困っていない。しかし、このようなカネを出されたときに受け取らないと、「お前は俺を信用しないのだな」というメッセージになり、今後の仕事に支障が生じる。新聞記者で外務官僚からカネを受け取る人もいたし、断る人もいた。受け取った人は官僚と運命共同体になるので、外務省の秘密情報を得やすくなった。

 関電幹部も森山氏からカネを受け取るのはまずいと思っていたにもかかわらず、受け取らざるを得ないような深刻な事情があったのだと思う。この関連で、岩根氏が10月2日の記者会見で明らかにした報告書には、「お前の家にダンプを突っ込ませる」「お前にも娘があるだろう。娘がかわいくないのか?」という森山氏の言葉が記されている。こういう発言は、通常、公務員の口からは出ない。背後に暴力装置を持つ人が用いる言語だ。森山氏はカネを掴(つか)ませることによって関電幹部を運命共同体にしようとしたのだと思う。

 地域で助役退職後も自分の影響力を誇示するという目的があるならば、森山氏がこのような行動をすることは十分考えられる。「俺は大人物なのだ」ということを周囲に認めさせたいという森山氏の願望を無視しては、事柄の本質がわからなくなると思う。

 不思議なのは関電幹部が修正申告をしたことだ。修正申告をすれば、カネは個人的に得た一時所得になり、森山氏から渡されたカネを返すのが怖いので会社で預かったという説明が成り立たなくなる。いずれにせよこの出来事の背後には、大きな闇が隠れていると思う。近未来に特捜検察が動き出す予感がする。

(作家・元外務省主任分析官)