高額な費用、薬の副作用、精神的負担…出口の見えない不妊治療を支え合う当事者交流


社会
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 子を望む人たちが思いを語り合い、交流する場が県内で広がりつつある。活動の中心になっているのは、治療経験がある不妊ピアカウンセラーたち。ことし2月に発足した「おきなわ妊活・不妊サポート協会」(浦添市)は、「妊活おしゃべり会」などを通じて孤立しがちな当事者の心に寄り添っている。

 「皆さんは治療を何年ぐらい続けましたか?」。5月、浦添市で開かれたおしゃべり会で、協会の協働代表の一人、宮城由香利さん(44)が穏やかな口調で語り掛けた。同じく協働代表の中本みかさん(48)は「じゃあ、私から。25歳で始めて、44歳になる年にやめました」と明かした。

 一般的な不妊治療は、タイミング法に始まり、人工授精、体外受精という段階を踏む。それぞれ悩みも異なるため、協会ではおしゃべり会に毎回テーマを設定。この日は「不妊治療にひと区切りつけ、ふたりの生活を歩んでいる方」を対象とした。

 開始当初は少し緊張した面持ちだった参加者も、互いの話に「分かる」「私もそうだった」と共感。終了後、初めて参加した40代の女性は「治療を終えた人たちはどう気持ちの整理をしているんだろうと気になっていた。集まる機会をつくってくれて、とてもありがたい」とほほ笑んだ。

 県内で不妊に悩む人たちが交流する場の先駆けとして、那覇市の石嶺公民館で開かれている「サチュン」がある。2008年5月にスタート。予約不要で、匿名での参加も可能だ。毎月第1月曜日、テーマは設定せずに参加者が思い思いに話し合う。主宰する看護師の玉城京子さん(53)は不妊治療の経験があり、07年にNPO法人Fine(東京)の認定ピアカウンセラーの資格を県内で初めて取得した。

 サチュンに足を運んでいた中本さんと宮城さん。中本さんはピアの資格取得後、心のサポートができる場を提供したいと、同じピアの宮城さんと玉城さんに協会の発足を相談した。趣旨に賛同する知人らの力も借り、今年2月に立ち上げた。中本さん、宮城さん、中本さんの友人の宮城由美子さん(48)が協働代表に就いた。

 協会では無料の妊活おしゃべり会や、有料の個別カウンセリングなどを実施している。9月までに開いたおしゃべり会は14回。当初は参加者ゼロの日もあり、宮城由香利さんは「心が折れそうになった」と苦笑いする。最近では参加人数が安定し、リピーターも増えてきた。

 自身も不妊治療中の由香利さんは「仕事と治療の両立をしながらの活動は正直、大変。だけど参加者の『気持ちが軽くなった』の一言で疲れが飛ぶ」と明るく話した。

通算18年、治療費800万円 2度妊娠も流産…

 「出口の見えないトンネル」ともいわれる不妊治療。薬の副作用による身体的な苦痛、子を授かれるかどうか分からない精神的な負担、高額な治療費など、当事者は多くのストレスにさらされる。不妊に悩むカップルが5・5組に1組に上るとされる日本だが、周囲の理解も十分には得にくい。当事者からは心のサポートを求める声が上がっている。

 「ゴールが見えず、いつまでやるのかなと不安がつきまとった」。「おきなわ妊活・不妊サポート協会」協働代表の中本みかさん(48)は通算18年に及んだ治療をこう振り返る。23歳で結婚。産婦人科クリニックに勤める友人の影響で、25歳の時に不妊の検査を受けたのが始まりだった。

 タイミング法から始め、人工授精、体外受精と段階を踏んだ。大きな原因はないのに、なかなか授からない。フルタイムの仕事を辞め、治療に専念した。貯金を切り崩し、生命保険を解約して治療費に充てた。30代後半で2度妊娠するも、いずれも流産した。

 夫(58)には、治療に苦しむ様子を案じられた。話し合い「2人で楽しくやっていこう」と、迷いながらも43歳で治療を終えた。治療総額は約800万円。子は授かれず、キャリアも貯金もない。「頑張ったのに結果は出なかった」と感じ、むなしさに襲われた。

私の経験も役に立つ

 友人らから不妊の相談を受け「話せて良かった」と言われることが度々あった。「私の経験も役に立つんだと、報われる思いだった」。不妊治療に関する制度や心理学などを学び、昨年、NPO法人Fineの認定ピアカウンセラーになった。

 治療中、医療的なアドバイスは病院などでもらえたが、心の相談をできる窓口がなかった。「1人で抱え込んでいる人は多いはず」と、協会発足の中心になった。「治療中の人のサポーターになれたら」と奔走している。

 おきなわ妊活・不妊サポート協会の顧問を務めるNaoko女性クリニック(浦添市)の高宮城直子院長は、医療機関が全ての患者の心をサポートするのは難しいと指摘。協会の活動について「同じ経験をした方たち同士で話をすることでカウンセリング効果も期待できる。組織化し、継続的に活動をすれば当事者だけでなく周囲への啓発にもつながる」と述べた。

 同協会が開く「妊活おしゃべり会」は11月以降、「2人目不妊」などをテーマに開催する予定。来年2月には妊活イベントも企画している。活動内容など問い合わせは同会(電話)050(3778)5629、またはメールokinawa.ninnin@gmail.com

(前森智香子)