合意に透ける沖縄県と2市の思惑とは… 那覇軍港移設先の協議加速


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3者会談を終えて確認事項を発表する玉城デニー知事(中央)、城間幹子那覇市長(右)、松本哲治浦添市長=24日、県庁

 米軍那覇港湾施設(那覇軍港)の浦添市移設を巡り、玉城デニー知事と城間幹子那覇市長、松本哲治浦添市長は24日の会談を「キックオフ」「新たなスタート」と強調した。「移設に関する協議会」(移設協)の枠組みで移設先を話し合うことで合意した背景には、選挙日程も念頭に、西海岸開発を早期に進めたい松本市長や周辺の意図も垣間見える。

アピール

 浦添埠頭(ふとう)の「北側」か「南側」か―。24日の会談では、最大争点の軍港の具体的配置は合意しなかった。会談後の記者会見で3者は、軍港移設と浦添西海岸開発を早期に進めていくことなどの確認事項を説明したが、当初からそれらの点について異論はなかった。そのほかに3者が挙げたのは、那覇港管理組合に、浦添埠頭地区調整検討会議を設置することだ。松本市長は「3人の了承をもって正式な組織として稼働させていく」と述べ、玉城知事も「きちんと合意・確認の上で、テーブルに着いた」と話した。

 調整検討会議は29日に会合を開き、正式発足する見通しだ。ただ、その方向性は3者会談の2週間ほど前に決まっていた。それぞれの担当者も「事務的に粛々と続けてきた結果だ」「会談を受けてという訳ではない」と説明した。

 事前に決まっていたにもかかわらず、トップ3者が改めて強調したことについて別の実務者は「一般には伝わっていないので(アピールのため)表に出したいという思いもあったのではないか」と語った。

浦添市長の「妥協」

 松本市長はSNSでの発信も通じ、トップ同士が顔を合わせて話し合うことにこだわってきた。周辺によると、松本市長は「政治判断」として、3者会談で軍港の配置まで合意したいと考えていたという。県や那覇市は対話は否定しないものの「移設協の枠組みで議論を進める」との方針を堅持してきた。県関係者は「県や那覇市は何も立場を変えていない」と強調する。那覇市幹部は「松本市長も『移設協で』と言ってくれた。那覇市としては前進だ」と語った。

 今回、松本市長側が“折れた”背景には、移設問題を早期に前進させたい事情がある。24日の会談後、報道陣の前で松本市長は那覇空港の第2滑走路供用開始やアジアの好景気に触れ「ゆっくりしている場合ではない」と話した。

 だが、松本市長に近い関係者はこう解説する。「市長が当選して7年目。早く進めないといけない段階だ」。経済界からも軍港問題を早期に解決し、西海岸開発を進めるよう求める声が大きい。16日にも、浦添商工会議所から開発計画の早期実現を要請されたばかり。松本市長はこれまでのトップ会談で、移設先について話を持ち掛けたが「移設協で話すことだ」とかわされてきたという。

 2020年度は浦添市長選や県議選、浦添市議選など「選挙イヤー」となる。松本市長のみならず、県議や市議の一部にも、選挙前に軍港問題を前進させたいという思惑が渦巻く。

 浦添市関係者は移設先を決める期限について「政治的には年度内だろう」と語った。
 (明真南斗、真崎裕史、伊佐尚記)