強引に進められる新制度 気になる大学側の消極性 南風原朝和(東大名誉教授) 言わせて大学入試改革(1)


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南風原朝和(東大名誉教授)

 私は2015年3月から翌年3月まで、大学入試改革等について検討するために文部科学省に設置された高大接続システム改革会議の委員を務めた。テストの作成や評価の基礎となるテスト理論の専門家として委嘱されたものである。その会議の最終報告が出たころ、私はちょうど本紙のコラム『南風』の執筆を担当していて、2016年4月8日付のコラムにはその会議について書いている。

 コラムでは、改革の目玉の一つとされた共通テストへの記述式問題の導入について、専門の立場から反対したこと、しかし導入を止めることはできなかったことを述べた。

 あれから3年半が経過したいま、さらに多くの専門家から反対意見が出ているにもかかわらず、再来年1月から実施される大学入学共通テストの国語と数学に記述式問題が導入されようとしている。

 一方、英語については、これまでのように大学入試センターが作成する試験に加え、英検やGTECなどの民間試験を共通テストの枠組みで導入することになっている。これらの民間試験は「読む」「聞く」「書く」「話す」の英語四技能を評価するもので、改革のもう一つの目玉とされている。

 高大接続システム改革会議では英語民間試験の導入についての議論はほとんどされず、最終報告では、今後、民間試験の知見を活用しつつ、四技能の評価を推進すると述べるにとどまっていた。その会議が終了した後、テストの専門家が不在となった小規模の会議に引き継がれてから状況が一変し、将来的には英語は民間試験のみでという案まで出されている。

 この方向性についても、専門家や高校関係者、さらには直接に影響を受ける高校生からさまざまな問題点が指摘されているが、早くも来年の4月から、共通テストの枠組みでの英語民間試験が実施されようとしている。

 いずれの改革案も強引に進められている印象が強いが、その中で本来、主体となるべき大学が受け身となり、積極的な発言があまり見られないのが非常に気になる。受験生のためにも、大学に知性と専門性を発揮してもらいたい。

 本欄では今後の状況の推移を見ながら、大学入試改革の課題と展望について述べていきたい。また、受験生の皆さんにも、学びを進めていくうえで役立つ助言ができればと考えている。

 (南風原朝和・東京大学元副学長)

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 はえばら・ともかず  1953年那覇市生まれ。那覇高校、東京大学教育学部卒業、米国アイオワ大学大学院博士課程修了(Ph.D.)。東京大学理事・副学長等を歴任し、現在、東京大学名誉教授。日本テスト学会副理事長も務める。専門は教育心理学、心理統計学。

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 新しい大学入学共通テストが2021年1月に実施されるにあたり、2人の執筆者に交互に、月一度、その背景や思いを執筆してもらう。次回は11月22日付で、灘高校・中学校教諭の木村達哉氏が執筆する。