小池都知事の不規則発言 衝突避けたロシア外交官<佐藤優のウチナー評論>


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 16日、2020年東京五輪のマラソンと競歩をめぐり、国際オリンピック委員会(IOC)が暑さ対策として、会場を東京から札幌に移す計画を発表した。

 どうもこの情報を小池百合子東京都知事は、最終段階で知らされたようで、ひどく機嫌を悪くしている。

 〈2020年東京五輪のマラソンと競歩の札幌開催案について、東京都の小池百合子知事は17日、連合東京の会合のあいさつで「涼しいところというなら、北方領土でやったらどうか、ぐらいの声を連合から上げていただければと思う」と述べた。/関係者によると、小池氏は会合で、国際オリンピック委員会(IOC)が唐突に変更案を発表したことに「青天のへきれき」などと不快感を表明。/安倍晋三首相や大会組織委員会の森喜朗会長がロシアのプーチン大統領と親しいとして「平和の祭典を北方領土でどうだ、と呼び掛けてみるのもありだと思う」とも話した〉(17日、本紙電子版)。

 この北方領土をめぐる発言について、小池氏は17日夕方、記者団から「発言の撤回は」と尋ねられると、「一案ということ」と繰り返した。森氏らとIOCが開催地の長である東京都知事の頭越しにマラソンの開催地を札幌に変更したことに小池氏が腹を立てて思わず口がすべったのならば、後から「あれは言い過ぎだった」と撤回すればいいのが、そうしなかった。その結果、この発言が冗談では済まされず、外交問題になるリスクが生じた。

 小池氏の発言をロシアも問題にし、18日にこんなツイートをした。

 〈#東京都知事 #小池百合子様/日本国内には寒冷な気候の土地がたくさんあるのは知っていますが、#ロシア主権の地域である#南クリル諸島はその中には含まれません。/#スポーツは統合のためのものであり、敵対な発言の話題であってはならないのです〉。このツイートをロシア外務省も公式ツイッターで転送した。

 去年11月14日にシンガポールで日ロ首脳会談が行われ、ロシアが日本に歯舞群島と色丹島を引き渡すことを約束した1956年の日ソ共同宣言を基礎に平和条約交渉を加速することが合意されてた。それ以後、日ロ両国は互いに国民世論を刺激するような発言を避けるようにしています。にもかかわらず、小池氏が実現可能性が皆無の北方領土におけるマラソンの実施を提案した。ロシアのナショナリズムを刺激する危険性もあった。

 駐日ロシア大使館は、この発言が冗談であることをよくわかっている。ただし、ロシアには「冗談にも部分的真理がある」という諺がある。小池氏の冗談を放置しておくとまずいと思ったのだろう。他方、ロシア外務省声明のような形で公式に批判すると、日本外務省も反応せざるを得なくなり、泥仕合になる可能性があるので、在京ロシア大使館がツイートし、それをロシア外務省が転載するという穏やかな形をとったのだと思う。

 小池氏の不規則発言で日ロ関係が悪化しないようにガルージン駐日ロシア大使を先頭にロシアの外交官はよく配慮した対応をしている。こういうところに外交官のプロフェッショナリズムが現れている。

(作家・元外務省主任分析官)