現代アートや彫刻を手掛けるフランス在住の美術家幸地学さん(65)=那覇市出身=の個展が27日、浦添市城間のSWMインテリジェンスセンターで始まる。沖縄での個展は2015年以来、4年ぶり。2年前に複数のがんを発症したが抗がん剤と免疫療法、妻・緑さん(66)ら家族の献身的な看病で回復した。展示会では闘病中に描いた水彩画67点を展示。「死を覚悟したこともあったが、故郷で個展を開催できるのは感無量。世界で個展を開いているがこんなに興奮しているのは初めて」と感慨深げに語る。
幸地さんは海外でも評価が高く、18年11月に作品45点がパリの国立美術館に収蔵、永久保存された。
腎臓がんを患ったのは17年6月。肝臓、肺、骨と次々に転移した。8月から抗がん剤の治療を行い、がんと副作用との闘いが始まった。苦しかったが寝たきりのベッドでスケッチブックを開くと状況が一変した。鉛筆を握ると手が震え、副作用で指はただれた。それでも絵を描き続けた。「がんを自然に受け止めた。精神的な自由さを感じると形と色彩が次々と思い浮かび、自然に手が動いた。充実感があった」
ベッド上での半年で描いたスケッチは300点。18年には治療の効果で奇跡的な回復を遂げ、水彩画でさらに300点を仕上げた。今回の展示は18~19年の水彩画で、全体を貫くテーマは「人生の自由、自然と共鳴」だ。
闘病前と作風は変わりシンプルになったが、明るくカラフルでユーモアにあふれ、がんに苦しんでいる間に描いた作品とは思えない。「芸術作品はその時代の“果実”。その時代でしか表現できない」と幸地さん。「沖縄の新しい表現、文化を発信し続け、世界のアーティストとして存在感を示したい」と夢は尽きない。
「幸地学展」は11月3日まで。問い合わせは(電話)080(6497)2886。
(宮城久緒)