在りしの日の姿忘れない 那覇市の90歳女性 戦前に毎月首里城で拭き掃除も楽しい思い出 「生きているうちに再建を」


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在りし日の首里城を描いた油絵を手にする真喜志利子さん=2日午後、那覇市首里池端町

 沖縄県那覇市首里の首里城が見える龍潭で、自作の油絵集を手に観光客に声を掛けて回る女性がいる。同市首里当蔵町の真喜志利子さん(90)。生まれも育ちも首里で、戦前や沖縄戦で焼け落ち、その後復興した姿を見てきた。「私の誇り」という首里城が焼失したことに心を痛めつつも「在りし日の首里城を覚えておいてもらいたい」。時間を見つけては龍潭を歩く。

 「ここからきれいな朱色の正殿が見えたのよ」。2日午後、真喜志さんは龍潭から首里城を眺めていた女性に声を掛けた。真剣な表情で話に聞き入る観光客の女性は「燃える前に来たかったです」と漏らした。

 先祖は首里城で宮仕えをしていたという真喜志さん。戦前は首里城のすぐそばにあった首里第一小学校に通った。「6年生は毎月、首里城の拭き掃除をしていたの。古くて黒ずんでいたけど楽しい思い出ね」。焼失した首里城を眺めながら、ため息をつく。

 沖縄戦中は一家9人で今帰仁村に疎開。戦後、首里に戻ると首里城も自宅も焼けていた。「心にぽっかり穴があいた」。だからこそ、復興していく姿は心の支えとなっていた。

 およそ20年前、夫が亡くなったのを機に、油絵教室に通い、次第にのめり込んだ。花や沖縄の風景を題材にしてきたが、龍潭から見た首里城や久慶門、戦禍を免れた弁財天堂も描いた。「まさか、首里城が焼けるなんて思っていなかったから、今となっては良い思い出ね」と苦笑いする。

 90歳を超え、脚も視力も衰えた。それでも週4回のデイケアでは歌に踊りに精を出す。「生きているうちに必ず再建してほしい。それまで死ねないわ」。暗かった表情が少し、明るくなった。
 (高田佳典)