「定期的な通院もできない…」離島住民を苦しめる移動問題とは〈復帰半世紀へ・展望沖縄の姿〉11


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ほとんど使われることのないまま残されている粟国空港=10月4日、粟国空港

 大小160の島々が点在する沖縄。政令で指定された離島は2018年3月末現在で54島となっており、うち37島が有人である。県は2012年に策定した沖縄21世紀ビジョン基本計画(沖縄振興計画)で離島が持つさまざまな課題「島ちゃび(離島苦)」を克服することを目指し、住民の移動や生活にかかるコストの負担低減などを掲げた。そのうちの一つに、離島の交通基盤の整備がある。

 交通基盤の整備が不十分なことから深刻な「島ちゃび」を抱える島の一つが、那覇の北西約60キロに位置する粟国村だ。那覇と村を結ぶ主な交通手段は1日1往復で運航するフェリー。片道約2時間10分かかり、日帰りはできない。台風やしけなどで長期の欠航も多く、2018年度の運航率は79%にとどまった。

 村では15年まで第一航空(大阪市)が運航する那覇―粟国路線が、国、県、村が運航赤字分を負担する形で就航していた。だが同年8月に粟国空港で着陸事故を起こし運休。18年1月に運航を再開したが、同社が提示した18年度の赤字分の補助が高額のため調整が難航し、同年4月に再運休。同社は補助が見込めないことから4月末に沖縄からの撤退を決めた。

 飛行機は那覇―粟国間を約25分で結んでいた。日帰りもでき、医療環境が十分に整わない村に暮らす村民が通院などにも利用する必要不可欠な交通手段だった。村在住の棚原宏明さん(68)は「フェリーの欠航が多いと定期的な通院もできない。2時間以上も船に乗るとなると、身体的にも精神的にもきつい」と不安定な交通網に頼らざるを得ない生活を嘆く。

 航空路線の再開を望む村民の声は多い。18年3月から4月にかけて、第一航空の社員有志が路線維持を求めて集めた署名855筆のうち村民の署名が404筆に上った。村の特産品「粟国の塩」の工場で働く奥原潔さん(50)は「飛行機があると安定的に商品を本島に運べたが、欠航が多いフェリーでは不安定だ。商品がないとお店にも迷惑を掛ける」と話し「フェリーはとにかく不便だ。早く飛行機の運航を再開してほしい」と訴えた。

 県と村は航空路線の運休中の代替手段として、15年11月から一括交付金を使いチャーターヘリの補助を開始した。ヘリは最大5人まで乗ることが可能で、片道2万1600円を人数割りで利用できる。だが1カ月前からの予約が必要な上、出発の可否や時間が当日まで決まらないなど、代替手段として十分とはいえない。県は現在、航空路線の再開に向けて複数の航空会社との交渉を進めているが、収支の問題などから交渉は難航している。

 再運休後に完成した粟国空港の新ターミナルは、ほとんど使われず残されたままだ。新城静喜村長は「このままでは生活の不便さから村から出て行く人がますます多くなり、来る人も少なくなるだろう。過疎化が止まらなくなってしまう」と危機感を募らせる。

 生活の「足」をフェリーに頼らざるをえない離島は粟国村だけに限らない。離島を多く抱える沖縄の発展に向け、住民の声を反映した上で「島ちゃび」を克服することが求められている。

(嶋岡すみれ)