一体誰のため? 地元住民いち早く「反対」 配備の行方―秋田と地上イージス(3)


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地図を示し新屋演習場と住宅地の近さを説明する佐藤毅さん=10月、秋田市の勝平地区コミュニティセンター

 秋田県秋田市の中心部から車で数分。日本海の沿岸近くにひっそり横たわるように、陸上自衛隊新屋演習場はある。1平方キロほどの広さだが、雑木林やフェンスに囲まれ、中の様子をうかがうことはできない。地上配備型迎撃システム「イージス・アショア」の配備候補地として浮上するまでは、市内でも演習場の存在はあまり知られず、なじみのない場所だった。

 隣接する勝平地区に住む佐藤毅さん(72)は幼いころ、自由に出入りできた演習場内で遊んだのを覚えている。現在は空砲を使った射撃訓練などが行われ、事前に周辺住民にも伝えられる。佐藤さんは「演習場があってもなくても生活に何の影響もないですよ」と説明し、こう付け加えた。「でも、ミサイル基地になるなら話は別です」

 戦後、ベッドタウンとして発展した勝平地区には約5500世帯、1万3千人が暮らす。演習場から徒歩圏内の距離に学校や住宅はある。北朝鮮の弾道ミサイル対策として突如浮上した地上イージス配備計画に対し、いち早く態度を表明したのは地元住民たちだった。演習場近くの16町内会でつくる「新屋勝平地区振興会」は2018年7月、住宅地への近さなどを理由に配備反対を決議した。

 振興会は来年で発足から50年。佐藤さんは現在、その事務局長を務める。当初は「半世紀の歴史で経験したことのない問題で、どうしていいか分からなかった」という。電磁波による健康被害の懸念や、有事に攻撃対象となる不安が入り交じる中で、地域で講演会や勉強会を重ねた。

 なぜ住宅地に近い新屋なのか。佐藤さんは、娘に昔買ってあげた地球儀を眺めるうちに、北朝鮮と配備候補地の秋田、山口を結んだ延長線上にハワイやグアムがあることに気付いたという。18年6月、防衛省の住民説明会でこの点を質問すると、職員は「あくまでも日本を守るものだ」と答えた。その後、米有力シンクタンクが、地上イージスの日本配備が米国本土の防衛にも資するとの報告書をまとめていたことを知る。「一体誰のために配備するんだろうか」。今も釈然としない。

 今年6月に発覚した防衛省の調査ミスなどが相まって、地元の反発は広がる。7月の参院選秋田選挙区では、配備反対を掲げた野党統一候補が自民党現職を破った。これまで秋田県内の25市町村のうち、11の議会が反対を求める請願や陳情を採択している。ただ“お膝元”の秋田市議会や県議会では、最大勢力の自民党系議員が慎重姿勢を崩さず、継続審査のままだ。県知事や秋田市長も賛否を明確にはしていない。

 振興会が開いた子育て世代との意見交換会では、沖縄で強行される米軍基地建設を引き合いに「国が決めたことは覆せないのではないか」という声も寄せられたという。

 「地元の理解が大前提」との説明を繰り返す防衛省に対し、その地元の住民団体である振興会は新屋を外した上での検討を求めている。佐藤さんは言う。「住民の意見や生活、安全を踏まえた上で一番の方法を考える。それが政治や国防ではないんでしょうか」
 (當山幸都)