ローマ教皇来日 日本の核廃絶政策強固に<佐藤優のウチナー評論>


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 23~26日にカトリック教会の最高責任者でバチカン市国の元首であるローマ教皇フランシスコが来日した。教皇は日本滞在の機会を最大限に活用して核廃絶の必要を強く訴えた。24日には長崎と広島を訪れ教皇は平和を祈った。

 特に興味深いのは長崎におけるメッセージだ。

 〈ローマ教皇(法王)フランシスコは被爆地の長崎を訪れ、核兵器のない世界の実現を呼びかけた。長崎は16世紀、幕府のキリスト教弾圧で多数の信徒が処刑された地でもある。/教皇フランシスコは教皇として約40年ぶりとなった今回の訪日は強力な政治的メッセージを帯びている。北朝鮮との非核化交渉の行き詰まりや米国による中距離核戦力(INF)廃棄条約の破棄に焦点を当てた。こうした事態により、アジアで軍拡競争が起きる恐れがある事実に光を当てることになった〉

 〈教皇は激しい雨のなか、1945年8月9日に2発目の原爆が投下され、約7万5000人が犠牲になった長崎にある爆心地公園で演説した。「人間の心の最も奥深くで願っているのは、安全と平和、安定だ。核兵器など大量破壊兵器の保有はこの願いに対する答えではない」と強調した。/多国間の協調体制の乱れも指摘し「新たな形態の軍事技術が増えていることを考えると、事態はなおさら深刻だ」と憂慮した〉(11月25日「FINANCIAL TIMES」日本語版)。

 教皇は日本におけるカトリシズムの宣教よりも核廃絶に関するメッセージを発することを優先した。また、25日夕刻にフランシスコ教皇が安倍晋三首相と会談した後の官邸における会合の内容が興味深い。

 〈教皇は官邸での演説で、民族間や国家間の紛争に触れ「対話こそ人間にとって唯一ふさわしく、恒久的平和を保証しうる手段」と指摘。「核の問題は多国間のレベルで取り組むべきだと確信している」と語った。(中略)首相は教皇の演説に先立つあいさつで、「日本とは、唯一の戦争被爆国として『核兵器のない世界』の実現に向け、国際社会の取り組みを主導していく使命を持つ国」と強調し、「私たちはこれからも、核兵器国と非核兵器国の橋渡しに努め、双方の協力を得ながら対話を促す努力において決して倦むことはない」と語った〉(11月26日「朝日新聞デジタル」)。

 今年8月2日に米ロ間のINF条約が廃止された。その結果、米国の一部に沖縄と日本に核弾頭が搭載可能な中距離弾道ミサイルを配備しようとする動きがある。配備可能性の話が米国から公式に出ると、中国とロシアの日本に対する姿勢が硬化し、東アジアの軍事的緊張が増大する。安倍首相がフランシスコ教皇と共に「核兵器のない世界」の実現を訴えたことは、この動きを牽制(けんせい)する意味を持った。

 日本は唯一の被爆国であり、核廃絶に向けた国民の思いも強い。他方、日本は米国の同盟国だ。そして、日本政府は米国の核兵器による抑止力に依存する政策を取っている。このような状況で日本の外交政策を核廃絶の方向に転換し、沖縄が核戦争に巻き込まれるような状況が絶対に生じないようにすることが重要な課題である。

(作家・元外務省主任分析官)