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ロシアのドーピング問題 領土交渉停滞に対処を<佐藤優のウチナー評論>


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 ロシアのドーピング疑惑に関して世界反ドーピング機関(WADA)は9日、スイス・ローザンヌで臨時常任理事会を開き、検査データ改竄(かいざん)を行ったロシア反ドーピング機関(RUSADA)を「不適格な組織」と認定し、〈ロシア選手団を東京五輪・パラリンピックやサッカーの2022年ワールドカップ(W杯)カタール大会、各競技の世界選手権など主要大会から4年間除外する厳罰処分を全会一致で決めた。潔白を証明した選手のみ個人資格での出場を認める。/連帯責任の全面的な除外は見送る一方、18年平昌冬季大会と同様に国としての参加や国旗の使用は認めない。国際オリンピック委員会(IOC)は「決定を支持する」との声明を出した〉(10日本紙電子版)。

 ロシア政府はWADAがこのような決定をすることを事前に予測していた。この決定が出る3日前の6日、ロシア政府が事実上運営するウェブサイト「スプートニク」(日本語版)がメドベージェフ首相の本件に関する見解を報じている。

 〈メドベージェフ首相は9日に予定されているWADAの理事会会議にコメントして、次のように語った。/「問題は2つの部分に分けられる。我々はもちろんこの先も自国におけるドーピング対策にむけた作業を続けていかねばならない。なぜならここでは我々は罪を犯した。それでは他の国は違反していないのだろうか? これが何よりも腹立たしいのだ。我々はこれらの例をみんな知っているではないか。なぜか彼らはこれら(ドーピングを使用した選手、国)をテーブルの下に隠しながら、ロシアだけを始終洗いざらい調べまくっているからだ。これが全体的な政治状況と関係していることは全く明らかだ。だがこの作業は行わねばならない。」〉

 メドベージェフ首相の理屈が国際社会で受け入れられることはない。駐車違反に関して、「他の人も違反しているのに、俺だけを摘発するのは不公平だ。だから罰金を払わなくて済むようにしろ」と主張しているようなものだからだ。

 プーチン大統領も反発しているが、論拠はメドベージェフ首相よりも冷静だ。10日、フランスのパリで行われた記者会見でプーチン大統領は、〈「WADAはロシア・オリンピック委員会に対し何のクレームもしていない。そうならば、ロシアの選手は自国旗の下で国際大会に出場すべきだ」と強調。「処罰は集団的に適用したり、(ドーピング)違反と何ら関係のない人々に拡大適用したりすべきでない」と訴えた〉(10日本紙電子版)。

 ロシアが東京五輪・パラリンピックに出場しないとなると、ロシア世論は「日本も欧米諸国と一緒になってロシアに嫌がらせをしている」という受け止めになる。このような国民心理は北方領土交渉にブレーキをかけるので、日本としても手を打たなくてはならない。早い時期に安倍晋三首相がモスクワを訪れ、プーチン大統領と会談し、ドーピング問題が日ロ関係に悪影響を与えないように働きかける必要がある。

(作家・元外務省主任分析官)