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英下院選挙 感情あおり排外主義生む<佐藤優のウチナー評論>


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 12日に行われた英国の下院総選挙(定数650、小選挙区制)で、離脱を唱えるジョンソン首相の与党・保守党が、過半数の365議席を獲得した。改選前の議席数は298で過半数に満たなかった。これで英国が欧州連合(EU)から離脱することが決定的になった。ジョンソン首相は、年内にも離脱に向けた法案を議会に提出して、来年1月末にブレグジット(英国のEU離脱)を完了したいとしている。

 ジョンソン首相が率いる保守党が大勝利を収めたのは、有権者の感情に訴える戦術が奏功したからだ。ブレグジットと英国民の感情の関係についてイスラエルの歴史学者ユヴァル・ハラリ氏が近著の『21 Lessons(トゥエンティワン・レッスンズ 21世紀の人類のための21の思考』(河出書房新社、2019年)において興味深い指摘をしている。

 〈国民投票や選挙は、人間の合理性にまつわるものではなく、つねに感情にまつわるものだ。もし民主主義が合理的な意思決定に尽きるのなら、すべての人に同じ投票権を与える理由は断じてない。いや、投票権そのものを与える理由すらないかもしれない。他の人よりもはるかに博識で合理的な人がいることを示す証拠はたっぷりある。特定の経済問題や政治問題に関するときは、間違いなくそうだ。ブレグジットの投票の後、著名な生物学者のリチャード・ドーキンスは、自分も含め、イギリスの国民に投票で意見を問うべきではなかったと、不満の意を表した。なぜなら一般大衆は、判断に必要とされる経済学と政治学の予備知識を欠いていたからだ。「アインシュタインが代数学的な処理をきちんとこなしていたかどうかを全国的な投票を行なって決めたり、パイロットがどの滑走路に着陸するかを乗客に投票させたりするようなものだ」〉。

 ジョンソン首相は国民の感情を刺激し、「パイロットがどの滑走路に着陸するかを乗客に投票させたりするような」手法を取ったので、政治的に勝利した。このような感情に訴える政治は、ナショナリズムや排外主義をあおる。

 英国だけでなくハンガリーやポーランドにおいても大統領が国民の感情を刺激し、移民反対をスローガンにした排外主義的政策を推進している。ドイツにも、排外主義的傾向の強い「ドイツのための選択」が旧東ドイツ地域を中心に無視できない勢力を形成している。感情をあおる政治傾向がドイツに広がるようになればヨーロッパは大混乱に陥る。

 現在、日韓関係が緊張している。一部の政治家や有権者が持つ嫌韓感情が、感情をあおる政治に転化することに沖縄は警戒感を強める必要があると思う。なぜなら、感情をあおる政治によって高まる排外主義の対象に沖縄と沖縄人が含まれる危険があるからだ。

(作家・元外務省主任分析官)