一括交付金を「狙い撃ち」 公営塾や渡航費助成…県と市町村の独自事業に暗い影〈3010億円の内実・20年度沖縄関係予算〉下


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説明は、琉球大学医学部などが移転するキャンプ瑞慶覧・西普天間住宅地区跡地。2020年度の沖縄関連予算では一括交付金が減額となる一方、国が市町村に直接交付する移転整備経費は増額となった=2017年12月22日、宜野湾市

 2020年度の沖縄関係予算は、県と市町村が比較的自由に使える一括交付金が約80億円減で12年度の一括交付金制度創設以来、過去最低となった。一方で増えたのが、西普天間住宅地区跡地の琉球大医学部など移転整備経費や、国が市町村に直接交付する沖縄振興特定事業推進費だ。政府の権限を強める予算の組み方に県幹部は「目に見えて(県を)締め上げている。県の領域を狭め、本来の沖縄振興予算が圧縮している」と指摘する。

 一括交付金は創設当初は執行率に課題があったが、県は不用額の圧縮に取り組み、ソフト交付金の執行率は18年度県分は92・8%、市町村分は82・7%まで改善した。離島共通の課題も多く、採算面から民間が参入できない公営塾の運営や渡航費助成で県民の満足度も向上した。一方、北部の自然と触れ合える河川整備、伊江村の透析センター、うるま市の金型人材育成など市町村独自の取り組みも進められてきた。教育分野では多くの自治体が学習支援員の配置を進めるが、中には交付金の減額で「増員したくてもできない」との声も上がる。

 一括交付金の減額は、翁長県政以降、6年連続だ。県は今年8月、概算要求を見据えた政府や国会議員要請へ向け市町村のハード事業の遅れなど影響をまとめた資料を作成した。「分かりやすい」との声もあり、手応えを感じていただけに大幅な減額に県幹部は「狙い撃ちだ」と頭を抱える。

 県と市町村が毎年協議して決める双方の配分は、本年度は5対3。減額分は県から市町村に充てて調整した。それでも市町村から不満の声が上がっており、県幹部は調整の難しさを懸念する。財政課の担当者は「事業は優先順位を付けて実行するが、ソフトもハードも影響が出てくるだろう」と見通す。

 政府は「基地と振興のリンク」を否定するが、一括交付金の減額は、辺野古新基地建設を巡る国と県の対立が背景にあるとみられる。県幹部は「政府と交渉しようにも『辺野古で妥協した方がいい』の一点張りでどうにもできない」と苦しさをのぞかせる。

 国直轄の公共事業費は前年同額の1420億円。大型の那覇空港滑走路増設事業が本年度で終わる一方で同額を維持したことに、県の担当者は「内閣府の皆さんも頑張っていただいたんでしょう」とおもんぱかる。首里城再建費も同事業費に入った。内閣府は沖縄関係予算を一括計上する今の仕組みで「別枠はない」と話す。

 20年度沖縄関係予算は政府の裁量権を大きくする傾向が一段と強まった形だ。この傾向は「沖縄の自立的な経済発展」をうたう沖縄の振興理念にもとると批判されてきた。県の自主性・主体性の下、地域特性に応じた政策決定が可能となる仕組みをどう求めるか。新しい沖縄振興計画の策定に向けた今後の議論が注目される。

(中村万里子、当間詩朗)