改革の目玉、突然の見直し 態勢や採点、大きな壁に 〈言わせて大学入試改革〉南風原朝和


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南風原 朝和

 10月25日付の本欄で、大学入試改革案が強引に進められている印象が強いと書いた。その改革案というのは、現在の高校2年生が大学を受験するときに始まる予定の大学入学共通テストの国語と数学に記述式問題を導入することと、英検やGTECなどの英語民間試験を共通テストの枠組みで課すことだ。この二つが改革の「目玉」あるいは「柱」と言われてきた。

 ところが、このわずか2カ月の間に、どちらの案も延期ないしは見送りとする決定がなされ、萩生田光一文部科学相から発表された。

 私は、2015年~16年の高大接続システム改革会議のときから、記述式の出題は大規模選抜試験には適さないことを指摘してきた。

 また、英語については、民間試験を共通テストとする案が出された2017年以降、東京大学で専門家や関係者を集めたシンポジウムを開いたり、『検証 迷走する英語入試』(岩波ブックレット)を刊行したりして、その問題点について警鐘を鳴らしてきた。それでもなかなか動きを止めることはできなかったが、それがここにきて、あっけなく止まったのである。

 高大接続システム改革会議のときの下村博文文科相から、馳浩、松野博一、林芳生、柴山昌彦の各大臣が、危なっかしい改革のバトンを次の走者に手渡し、そして最終走者となった萩生田氏が走りだしてみたら、目の前に大きな壁が立ちはだかっていて、ストップせざるを得なかった、ということだろう。

 その大きな壁というのは、英語については、多くの受験者が見込まれた国産の民間試験について、受験者数が読めず、会場や監督者の確保ができなかったことである。また、記述式については、大量の答案を採点するための質の高い採点者を確保することや、採点の正確さを保証することができなかった。

 しかし、これらの大きな壁は、ずっと前から見えていたものであり、したがって、もっと前に強引な動きを止めて、今回起きてしまった混乱や損失を回避すべきであった。

 ともかく、無謀な改革は取りあえず止まった。受験生は、少なくともこの二つの改革案のことは気にする必要がなくなった。しかしこれは高校生、受験生にとって、記述の力が重要ではないということでも、英語を話す力などが必要ないということでもない。

 どのような力をつけていくことが大事か、については、また次回以降で。
 (東京大学元副学長)

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 新しい大学入学共通テストが2021年1月に実施されるにあたり、2人の執筆者に交互に、月に1度、その背景や思いを執筆してもらう。次回は1月24日付で、灘高校・中学校教諭の木村達哉氏が執筆する。